大人気eスポーツ
「ライズ・オブ・eスポーツ」ローランド・リー著 小浜杳訳
子供の遊びと思われていたゲーム。実はもう、数十億円規模の巨大産業として前途有望なのがe(エレクトロニック)スポーツだ。
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実は現在のeスポーツには既に50年の歴史がある、というのが本書。1972年、米西海岸スタンフォード大の人工知能研究所に集まった24人の学生たちが世界で最初のコンピューターゲームのひとつ、「スペースウォー!」の腕を競ったのだ。
ゲームを開発したのは東海岸マサチューセッツ工科大の学生たちだったという。彼らが使ったマシンは学術用だったが、集った若者たちはスティーブ・ジョブズと同世代。つまり、後のパソコン文化をリードする世代がeスポーツの幕開けを飾ったことになるわけだ。
その後、80年にはアタリ社が「スペースインベーダー」のチャンピオン大会を主催し、90年代には任天堂が「スーパーマリオブラザーズ」の大会に子供たちを集めた。「ファミコン」と呼ばれた時代まで含めると、eスポーツは巨大産業になるために年月をかけて周到な準備をしてきたことがわかるだろう。
著者は88年生まれのミレニアル世代。北京生まれで米国に移民して医学部に進学したが、気が変わってジャーナリズムに進むことにしたという。自身もゲーマーとして、eスポーツは自動車レースと比べても「スポーツ」として遜色ないという。著者の人生からして時代の変化を感じさせる。
(白揚社 2640円)
「みんなで楽しむeスポーツ」田簑健太郎編
いきいき茨城ゆめ国体で、つくば国際会議場を舞台に開催されたのが「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019IBARAKI」だ。eスポーツは既に、国体の正式種目になっているのである。流通経済大の「スポーツ健康科学科」で教壇に立つ編者は「多様性とICTの時代に即した新しいスポーツ」だと言う。しかし、日本はその世界的な潮流の中では後進国。日本では18年が「eスポーツ元年」といわれるが、世界では20年前に各地でゲームの大会が開かれ、「eスポーツ」という通称も10年前から使われ始めたという。
それをリードしたのが実は韓国。民主化が進むさなかの韓国は不況で苦しみ、窮余の策としてネット事業の整備を国策として推進した。結果、老若でゲームが大流行し、それが今日の隆盛につながったのだという。何事もチャンスと捉える発想こそ「e」の時代に必要なものだろう。
スポーツ人類学、スポーツ政策学などの専門家がさまざまな側面からeスポーツを考察し、eスポーツの可能性を説く。
(山川出版社 1980円)
「続・eスポーツ地方創生」筧誠一郎著
一昨年に出版した「eスポーツ地方創生」の続編。長年、電通で音楽やゲームイベントなどエンタメ系の営業に関わった著者は、「地方創生」の掛け声で箱物をどんどん造る日本の地方自治体の体質に苦言を呈する。
eスポーツの世界競技人口は現在、およそ1億3000万人以上、賞金総額が100億円超えの大会も登場した。しかし著者は目先の人気にとらわれず、大都会を避け、地方に根を下ろしてじっくり育てることがeスポーツを「産業」として発展させるコツだと言う。親会社頼りの野球に対抗し、地方に拠点を置いてビジネスとしての礎を築いたJリーグと同じ発想だ。
県内唯一のeスポーツ専用施設を設けた富山県高岡市や、町おこしイベントにeスポーツを積極的に活用しようとする徳島県の事例など、現場で鍛えた著者らしい具体性に富む。
(白夜書房 1980円)