水俣病の人々への寄り添い方を示した記念碑的作品
「水俣曼荼羅」
ジョニー・デップが写真家ユージン・スミスを演じた映画「MINAMATA-ミナマタ」が封切られた際、都内ではかつて土本典昭監督が撮ったドキュメンタリー「水俣 患者さんとその世界」と「水俣一揆 一生を問う人びと」が記念上映された。ともに半世紀前に製作され、石牟礼道子「苦海浄土」と並んで水俣病の人々への寄り添い方を示した記念碑的作品である。
それから幾星霜を経て、2004年に最高裁が「水俣病の被害拡大防止を怠った国と熊本県に対する法的責任」を認める通称「関西訴訟判決」を出したことで、長年の係争も落着と思った人は多かったのではないか。それを正す報道はほそぼそとなされたが、世間の関心は薄まるばかりだろう。そこに登場したのが、先週末封切られたばかりの大作「水俣曼荼羅」だ。
「ゆきゆきて、神軍」の原一男監督が20年を費やしたドキュメンタリーというのが惹句だが、水俣病の歩みに比せば短い。むしろ本作は古い通念のままだった世間の関心を再起動させる映画だろう。
およそ2時間の作品が3作連続で合計6時間。そう聞いただけで腰を引く人も少なくなかろうが、これは違う。強引なようで繊細、愚直なようで周到なドキュメンタリスト原一男の力量で、いまだ明るい展望を得られぬ胎児性水俣病の人々の生が最後に輝き出す。その過程がすばらしい。
印象的なのが主題曲。予告編でも聴けるが、エキゾチックで力強いブラスの音色が日本社会の旧弊を痛打する。「T40チョチェク」というバンド名は詳細不明だが、チョチェクはバルカン半島の流謫の民ロマ(ジプシー)のダンス音楽。ベオグラードの映画祭に出席した監督の耳を捉えたらしい。
ジプシー音楽の日本語文献は少なく、「小泉文夫著作選集3 民族音楽紀行」(学研 2200円)が今も輝きを放っている。 <生井英考>