ダークファンタジー風味のピノキオ物語
「ほんとうのピノッキオ」
昔話が現代の子ども向け物語にされるときに、大幅な書き直しや、残酷な描写が削られたりするのが多いのは割に知られた話だろう。
有名なグリム童話も、もとはグリム兄弟による民話採集の集成。19世紀初頭に出た原本も民間伝承が色濃く、妊娠や近親相姦まで出てくるようなものだったという。
グリム兄弟もそれらを中流階級向けに書き直したらしいが、現代の場合、何より影響の大きいのがディズニーアニメ。家族向けの健全な娯楽からはみ出すものはディズニーではすべて変えられた。その典型がピノキオの物語だ。
先週末封切りの「ほんとうのピノッキオ」は、こんな“ディズニー版”を脱した実写版の本格的なピノキオ物語である。
見どころのひとつが現代のダークファンタジーの風味を加えたメーキャップ。木彫りの人形という設定のピノキオも、日本のミッキーマウス好きの子どもが喜ぶかといえば微妙なところだろう。
しかし大人の視点でこの映画を見るとガラリと印象が変わる。特にジェペット爺さんは孤独でみじめな貧民で、たまたま授かったピノキオにつたない父性愛を注ぐ。少子高齢化の現代は初老の男が孫と見まがうような子を連れた姿をよく見るが、本作でジェペットを演じたイタリアの名優ロベルト・ベニーニもまさにこの風情で、そのへんがおセンチな筋立てを風趣豊かに味付けしているのである。
原作は19世紀末に出版されたカルロ・コッローディの小説。数社から完訳版が出ているが、ここではNHKのEテレでピノキオを取り上げたときのテキストを挙げておこう。「NHK100分de名著ムック」の「コッローディ ピノッキオの冒険」(NHK出版 576円)は、イタリア文学者・和田忠彦が歴史的な背景から物語の寓意まで丁寧に解説している。 <生井英考>