大河ドラマを先取り 鎌倉時代が分かる本特集

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「北条氏の時代」本郷和人著

 明年のNHK大河ドラマは「鎌倉殿の13人」。鎌倉幕府を開いた源頼朝の死後、後を継いだ2代将軍頼家と頼朝時代以来の重臣13人の権力争いを描く。そこで今週はドラマの予習のために鎌倉時代をテーマにした歴史テキストや読み物を特集する。



 戦国時代や幕末に注目が集まりがちだが、鎌倉時代こそ、日本史の大きな転換点だと著者はいう。武士の登場、さらに源頼朝がつくり上げた鎌倉を拠点とする政権は、当初は関東ローカルの存在にすぎなかったが全国的な政権へと成長し、それまで西高東低だった日本史の舞台を大きく東へと拡大させた。その鎌倉時代の主人公が北条氏だ。

 頼朝によって始まった幕府だが源氏の将軍はたった3代で終わり、頼朝の死後、関東武士のリーダーをつとめたのは時政、義時、泰時、時頼、時宗と続く北条家の人々だった。彼らは、頼朝のような高貴な出自ももたず、当時の辺境だった伊豆地方を拠点とする無名の一族だった。その彼らが100年以上も日本のリーダーをつとめたことにも北条氏の歴史的重要性がある。

 本書は、義時をはじめ、代々の北条家当主が果たした歴史的役割を彼らのリーダーシップに注目しながら概観する鎌倉時代通史。

(文藝春秋 990円)

「鎌倉幕府と執権北条氏の謎99」中丸満著、かみゆ歴史編集部編

 日本では平清盛による政権掌握から大政奉還まで約700年間、断続的に武家政権が続いた。中国や朝鮮が武よりも文を重視したのとは対照的だ。12世紀末の武家政権の誕生は、律令国家の成立と明治維新にならぶ日本史のターニングポイントだが、先進国を範とした他の2つと異なり、武家政権は、日本を日本たらしめる独自の歴史や社会を形成する大きな力となったと著者は説く。

 本書は、源平の誕生から鎌倉幕府の樹立を経て承久の乱によって武士が朝廷を超える権力を手にするまでの武家政権成立の過程を、Q&A形式で解説した歴史副読本。

「宿命のライバル、平氏と源氏はどのように生まれた?」にはじまり、「なぜ、頼朝は短期間で鎌倉幕府を築くことができたのか?」「北条義時・政子姉弟はなぜ父の時政を追放したのか?」など、源平の棟梁や北条氏、そして御家人らの生き残りをかけた戦いが簡潔に解説され、おさらいに最適。

(イースト・プレス 924円)

「頼朝の武士団」細川重男著

 鎌倉幕府は153年間存続したが、頼朝の18年間はその歴史の中でも特異の時代だった。組織や制度の面でも未成熟で、政所(行・財政担当)、侍所(軍事・警察・御家人統率)と並ぶ3大機関のひとつ問注所(司法手続き)にいたっては、頼朝邸の廊下に設置されていたという。

 頼朝の死後、幕府の制度・組織が整うと共に、政権中枢の役職に権力が集中し、中枢の役職を世襲する家系が出てくる。その特権的家系の代表が頼朝の妻・政子の実家であった北条氏だ。また、頼朝とその後継者である鎌倉殿の直臣という点で平等であったはずの御家人たちの間にも格差が生じてくる。

 18年間で30人以上の身内や家臣を殺害した頼朝には「猜疑心が強く陰険」なイメージがつきまとうが、彼と御家人との関係はどのようなものであったのか。さらに、幕府を託された義弟・義時の人物像、鎌倉幕府や当時の都市としての鎌倉の雰囲気、各人物像までを生き生きと描き出す歴史解説書。

(朝日新聞出版 1045円)

「鎌倉殿と執権北条氏」坂井孝一著

「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当する研究者が、頼朝配流から承久の乱までを、北条時政・政子・義時の視点から描き出す、まさにドラマのサブテキストに最適本。

 北条氏の出身地である伊豆国は、古来、中央政治から隔絶しやすく、都から政治犯が流される地だった。北条氏は、当時、伊豆の武士団の中では中程度の規模で、史料からは、時政は京都志向・上昇志向の強い人物だったと思われるそうだ。平治の乱で敗れ流罪となった頼朝の配流地は、通説では蛭ケ小島とされるが、著者は平家の家人・伊東氏の御所とみる。頼朝は監視先の伊東氏の娘と密かに契り、男児をもうける。だが、京から戻った当主の逆鱗に触れ、男児は殺され、自らの命の危険を感じた頼朝は、時政に助けを求めたという。

 こうした頼朝と北条氏の出会いから、義時を国の最高権力者に押し上げた承久の乱の鎌倉方の完勝の詳細まで。権力闘争の駆け引きや複雑な人間関係を読み解く。

(NHK出版 1023円)

「小説集 北条義時」海音寺潮五郎ほか著、三田誠広解説

 北条義時、そして彼と同時代を生きた人々を主人公に描いた時代小説を編んだアンソロジー。

 実朝暗殺からおよそ1カ月後、都の後鳥羽上皇から弔問の使いがやってきた。使者の藤原忠綱は、実朝の母・政子と北条義時に丁重な弔辞を述べた後、さりげなく院の意向だと摂津国の長江荘と倉橋荘の地頭の交代を求める。弔問の真の目的はそれだった。さきに東国は実朝の後継者として、後鳥羽の皇子をと申し入れをしていた。だが、皇子の人質化を嫌った西国が難色を示し、実朝の死につけこんで、地頭の交代を絡ませて要求してきたのだ。要求をのめば地頭制度は崩壊しかねず、義時は決断を迫られる。

 乱にいたるまでの経緯を描いたこの永井路子の「承久の嵐」をはじめ、頼朝の家臣の暗躍を描いた海音寺潮五郎著「梶原景時」など6編を収録。さらに政子を主人公にした「尼将軍」の著者三田氏が義時の生涯を概説する。

(作品社 1980円)

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