マンガからブログ的視点まで 古典に親しむ本特集

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「読まなければなにもはじまらない」木越治、丸井貴史編

 2ちゃんねるを開設したひろゆき氏が唱えた古文漢文オワコン説をきっかけに、古典不要論を巡って議論が巻き起こった。変化の激しい今だからこそ、連綿と受け継がれてきた古典の意義が問われている。そこで今回は、古典との新しい付き合い方を示唆する5冊をご紹介する。



 とかく難しいと思われがちな古典文学。学校でかじったものの、何をどう読めばいいのかわからないまま、疎遠になってしまうという人が圧倒的に多い。独特の文法や単語に阻まれ、古典の魅力を知らないのは惜しいと思ったら、本書を手に取ろう。本当の意味での「古典文学を読むということ」とは何かを考えさせてくれる。第4部「読むことでなにがはじまるのか」には、古典を読むことをテーマにした座談会を掲載。たとえば外国文学は翻訳で読んでも「読んだ」と言うのに、古典は現代語訳や漫画などで読んでも「読んだ」と言いにくく、古典を読んだと言うには勇気がいるのはなぜかという問題が取り上げられている。

 現代語訳を知ればおしまいという読み方から一歩進んだ、古典の楽しみ方のヒントを探してみよう。

(文学通信 2090円)

「ラノベ古事記」小野寺優著

 日本最古の歴史書「古事記」をライトノベル風に翻訳した「ラノベ古事記」の第2弾。上中下巻からなる「古事記」の「中巻・天皇記」の前半部分をユーモラスに描いている。

 第1章「神武天皇」では、カムヤマト・イワレビコが兄のイツセノミコトに呼び出されるところから始まる。イツセノミコトは、「日向三代、国民から人気なさすぎ問題」をイワレビコに持ち出す。日向の方が天照大御神直系なのに、キャラの濃い出雲のスサノオや大国主神に人気を持っていかれているため、日本全国に「俺らが日本を治めています」と知らしめるべく、東に向かって旅に出ることを決めたのだが……。

 ハードルが高そうな古事記も、著者の手にかかれば人気のRPG並みに面白い。各章ごとに神様の人物相関図付きなのもわかりやすい。

(KADOKAWA 1540円)

「なりきり訳 枕草子」清少納言著 八條忠基訳

 清少納言が今の時代にタイムスリップしたら、どんな言葉で枕草子を描くだろうか。本書は、枕草子を平安時代のブログととらえ、清少納言になりきった現代語訳で表した。平安の暮らしの解説文と併せて読むと清少納言の生活や感性が身近なものとして感じられる。

 たとえば、第二十四段「生ひ先なく、まめやかに」は「女の生き方」と称され、その出だしも「将来の計画もなくて、ただもうダンナに頼りっきり、自分の周囲だけのささやかな幸せを夢見ているような人生はズバリ、つまんないわよ」と翻訳。第三一九段「この草紙、目に見え心に思うことを」では誰も読まないと思って好き勝手に書いた文章が世に出た経緯が書かれており、他者に忖度せず自身の感性に従ったからこそ古典として生き残ってきたことがわかる。

(淡交社 1760円)

「漫画 方丈記」鴨長明著/信吉(漫画) 吉野朋美(時代考証) 養老孟司(解説)

 方丈記は、平安時代末期に書かれた日本三大随筆のひとつ。「ゆく河の流れはたえずして/しかももとの水にあらず」という一節は有名だが、日本最古の災害文学としての顔も持っている。本書は、そんな災害文学としての方丈記に焦点を当て漫画化したもの。

 都の大火災、養和の飢饉、文治地震などを体験した鴨長明が行き着いた悟りの境地は、新型コロナや経済低迷、度重なる地震で明日に確証が持てない現代人の心に、不思議なほど寄り添う。大きな竜巻や津波を伴う地震が雅を誇った都を破壊した様子や、遷都などの政治の失敗が人民を貧困に追い込んだ様子が描かれ、これらの災いが私たちにも他人事ではないことが伝わってくる。すべてが永遠ではないことを実感した元祖ミニマリストから学ぶことは多そうだ。

(文響社 1485円)

「歎異抄ってなんだろう」高森顕徹監修 高森光晴、大見滋紀著

 今から約700年前、親鸞聖人の教えを唯円という弟子が書き留めたとされる「歎異抄」。

 親鸞聖人が書いた「教行信証」よりも読みやすいとされるものの、仏教用語が多用されている古典とあって、一般の人はなかなか容易に読むことができない。本書は、初めて歎異抄を知りたいと思う人に向けて書かれた歎異抄の入門書。

 歎異抄は、初めから原文を一語一句訳して読むよりも、まずは親鸞聖人の教えの全体像を把握した上で読んだ方が読みやすいことから、本書ではたとえ話を駆使してその世界観を伝えている。骨子としては「難病人」「名医の案内人」「名医」「特効薬」「全快」「お礼」の6段階を設定。難病人が全快して感謝の気持ちを抱くストーリーを通して、生きる意味を見失った人を平安に導く道筋を示している。

(1万年堂出版 1760円)

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