食と農のグローバル
「グローバル世界の日本農業」小林寛史著
食料自給問題に加え、気候変動や食の安全保障など問題山積なのが世界におけるニッポンの「食と農」だ。
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大学卒業後、JA全中(全国農業協同組合中央会)の職員として対外交渉にもたずさわってきた著者。第1次世界大戦後に日本が本格的な国際進出を開始した時代に始まり、戦後の占領期を経て現在にいたる日本農業の流れを概観しながら、いかにして日本の農が世界と向き合ってきたのかを論じる。本書はいわば著者の長年の仕事の集大成だろう。
食の安全保障に関する一例として、著者は1990年代半ばまで、日本と東南アジア諸国は主張の相いれない間柄だったという。ひとつは日本農政が豪州やカナダなど欧米を中心に世界情勢を見ていたこともあり、小規模な家族農業で人口密度も高いアジアと他地域の違いに合わせる姿勢が薄かったようだ。いかに日本が欧米に「追いつけ追い越せ」型でやっていたかの象徴だろう。
しかし福田政権期の福田ドクトリンと小泉政権期のEPA(経済連携協定)推進により状況が徐々に変化。特にタイとのJTEPAでは「自由化と協力の適切なバランス」を重視する方針が貫かれた結果、ウィンウィンの関係が構築されたという。
とはいえそれも万能薬なわけではなく、ことに近年では気候変動問題などに関連してグローバル世界における農の難しさと重要性はますます高まっているのである。
(作品社 2640円)
「食卓から地球を変える」ジェシカ・ファンゾ著 國井修ほか訳
農業の問題はヒトの健康や公衆衛生にも直結する。本書は米ジョンズ・ホプキンス大学で食料・農政と生命倫理を専門とする現役研究者による地球規模のフードシステム論である。
フードシステムとは食料を通じたエコシステムのこと。近年の地球温暖化や海面上昇、動植物の絶滅危惧問題などは人間の諸活動が環境を大きく揺るがす人新世ならではの現象だ。当然、農業はそこに大きく関わる。
たとえば肉類、精製糖、油脂類を多く含む現在の食生活のパターンが続くと、温室効果ガスの排出と森林伐採は2025年までに80%も増加させる可能性があるという。
地球規模で見ると過去1世紀のうちに農業の多様性は大きく減少し、米、小麦、トウモロコシの3種類で世界の食料の3分の2までをまかなっているのが現状なのだ。大いに考えさせられる本である。
(日本評論社 2420円)
「国民のための『食と農』の授業」山下一仁著
食の問題がいまや安全保障とも結びつくことは、ウクライナが世界の小麦生産の一大産地であることからも明らかだ。本書は元農水省の官僚でいまは企業シンクタンクの研究員が説く東大での講義録。
しばしば世間からの批判の対象となるのが日本の食料自給率の低さ。しかし農水省は自給率の引き上げを唱えながら、実は米価を高くしたままの減反政策を続けている。これでは率は上がらない。逆に小麦は低価格のまま、輸入制限もしないので、かつては米と麦の消費量は3倍の開きがあったのがいまは同等という。
こうした状態にJAも反対せず、ただ米価引き上げにのみ固執してきた。結果、最も保護してきたはずの米農業が最も衰退という皮肉な状態に陥っているのだ。
(日本経済新聞出版 2970円)