21世紀の独裁者プーチン
「プーチンの正体」黒井文太郎著
ロシアのウクライナ侵攻が予想以上に長期化する中、プーチンは国内の支持基盤を盤石にしたといわれる。
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ロシアのウクライナ侵攻が始まって間もなく、日本では「さっさと降伏するのが被害を最小限にする手」という無責任な声が一部にあがった。しかし本書は冒頭で「プーチンは根本的に『侵略者』である」と言い切る。単なる独裁者以上に、侵略に快楽を覚えるタイプなのだ。
敵勢力のテロ行為に見せかけた自作自演のしわざを「偽旗作戦」というが、プーチンは昔からこれが得意。かつてエリツィン大統領(当時)から首相に指名されたプーチンは、モスクワ市内でチェチェン人によるテロを自作自演。それ以前、プーチンは無名に近かったが、これで一気に知名度を上げ、「外に敵を作る」手法でロシアの世論を操った。著者は専門誌「軍事研究」の特約記者として長年プーチンを追ってきたプロ中のプロ。「躊躇なくウソをつき、絶対に妥協しない」のがプーチンだという。
ロシア国内では「アメリカに負けない強い指導者」「世界のロシア系住民をネオナチから守る救世主」というイメージを確立し、圧倒的な人気を誇る。プーチンは「ウクライナ政府はネオナチ」と主張するが、著者は本人こそ「ヒトラーに似ている」と喝破する。
(宝島社 880円)
「ウラジーミル・プーチンの大戦略」 アレクサンドル・カザコフ著 佐藤優監訳 原口房枝訳
プーチンに関する文献は訳書だけでも相当数あるが、本書はその中でも折り紙付きの一冊。
著者はロシアの政治学者で活動家。実は、佐藤優氏がモスクワの日本大使館勤務時代に親しい友人となり、本書にも佐藤氏が長い解説を寄せている。それだけでも注目度は高いといえるだろう。
本書によるとプーチンは新たなロシアの世界戦略として「ネットワーク型帝国」の建設を夢見ているという。これは領土的に版図を押さえる昔ながらの帝国と違い、メンバーは互いに自立しているが現代的なコミュニケーションでつながれて新たな利権共同体になる。
たとえば仏独はエネルギー資源などでロシアに深く依存しており、それが今回のウクライナ侵攻での仏独の曖昧な態度につながっているのだ。
「社会保守主義」「主権民主主義」などプーチン独自の政治哲学にもくわしい。
(東京堂出版 4180円)
「独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか」 池上彰著
選挙特番から少子高齢化問題まで、政治、社会、外交、軍事の全分野で“人間ウィキペディア”状態なのが著者。その情報源は新聞各紙と外電、そして各分野の専門家による解説書を徹底的に読み込むところにあるようだ。
週刊文春の連載コラムを集めた本書でも、ソ連崩壊後のロシアで復活したロシア正教会をプーチンがとことん利用し、ロシアとウクライナそれぞれの正教会の間の確執が侵攻にも影響しているようだという。今回は大国ロシアに対する小国ウクライナの善戦というイメージだが、それはやはり祖国防衛だから。過去にソ連がフィンランドに侵攻した時も同様だ。この時の通称「冬戦争」でてこずるソ連を見たヒトラーが独ソ不可侵条約を破棄して独ソ戦に踏み切った。フィンランドは意外な強さを発揮し、ソ連軍に3倍以上もの損害を与えたのだ。ウクライナ情勢の今後を考える時にも便利な一冊だ。
(文藝春秋 1430円)