「東京の名駅舎」大内田史郎著 傍島利浩写真
日本に鉄道が開業してから150年。その間、全国津々浦々に路線は延伸し、各地に実にさまざまな駅が建てられ、人々の移動の要を担ってきた。
本書は、関東圏に張り巡らされた鉄道の中から、歴史のある駅舎や、外観デザインや内部の空間構成などに特色がある駅舎を選び、建築的視点から解説するビジュアルブック。
トップバッターで取り上げられるのは、鉄道発祥の地に蘇った「旧新橋停車場」(写真①)。1872年に日本で最初に開業した鉄道路線の起点となった駅舎を、2003年に開業時と同じ場所に復元したものだ。駅舎に続く石積みのプラットホームと線路も再現されている。
そして続くページでは日本のセントラルステーション「東京駅」を特集。
1914年に開業した東京駅は、関東大震災にも耐え、戦争で1945年に一部が焼失するまで東京のシンボルとしてその雄姿をとどめていた。
戦後の復興工事で創建時の3階建てドーム屋根は2階建ての八角屋根に変わったが、ご存じの通り、2012年、約60年ぶりに創建時の姿を取り戻した。その復元されたドームの内部など見どころを紹介。
一方、格調高く歴史性を象徴する丸の内側とは対照的に、2014年に完成した八重洲口は全長240メートルの歩行者デッキを光の帆をモチーフにした膜構造の大屋根で覆い、先進的なデザインとなっている。
東京の「北の玄関口」と呼ばれてきた「上野駅」も装飾を排除したシンプルでありながらも風格がある正面口(1932年建築)と、2020年に新駅舎が建設された「公園口」のふたつの表情を見せる。
以降、東京五輪・パラリンピックに対応するため惜しまれつつ解体された「旧原宿駅」(将来的に再現予定)と、対照的に山手線で49年ぶりに開業した新駅「高輪ゲートウェイ駅」、さらに「御茶ノ水駅」(1932年)や「両国駅」(1929年)など、まずは都心の駅が次々と登場。
普段利用しているときは、なかなか気づかないが、こうして写真で改めて外観を見ると、その美しさやデザイン性に目を奪われる。
ほかにも、薄暗い高架下の空間が戦後から時間が止まってしまったかのようなJR鶴見線の「国道駅」(1930年=写真②)や、地下ホームから地上の改札まで462段もの階段を上らなければたどり着かないJR上越線の「土合駅」(1967年)など、建設当時から変わらぬ姿の駅舎から、以前を知る人はその変貌ぶりに目を見張る東京メトロ銀座線の「渋谷駅」(2020年)や京王高尾線の「高尾山口駅」(2015年=写真③)、竜宮城を模した小田急電鉄江ノ島線の「片瀬江ノ島駅」(2020年)や、蒸気機関車をモチーフにした真岡鉄道真岡線の「真岡駅」(1997年)など、装いも新たになった駅やユニークなデザインの駅まで70余駅を網羅。
駅舎がこんなに面白いとは。これからは、初めて降りる駅では駅舎を出たあとに振り返って、「鑑賞」してみなくては、もったいない。
(草思社 2200円)