「トコヤ・ロード2」林朋彦著
東京をはじめ、全国各地の昭和のテイストを色濃く残す「床屋」を撮影した写真集の第3弾(第1弾は別名タイトル)。前2作同様、その土地の歴史とともに歩み、お客さんも2代、3代と世代を超え通い続ける個性的で「味のある」床屋さんが登場する。
江東区亀戸の「理容ナグモ」は、なんと著者の祖父が通っていた店。インスタグラムで、近所に1軒だけあった床屋の見覚えのある店名を見つけ、訪ねてみると、店主は祖父のことを覚えていたという。緑の窓枠が印象的でこぢんまりとした店は、掃除が行き届き、いかにも居心地がよさそうだ。
墨田区で撮影されたお店は、入り口の引き戸をはじめ、店の外観には一切、店名が記されておらず(かつてはあったのかもしれないが、その痕跡もなし)、ただ入り口の右上に控えめに取り付けられた小さなサインポールがここが床屋であることを表している。常連客に支えられ、それで十分なのだろう。
数え切れぬほどの客が座ってきたであろう赤い椅子をはじめ、店内の什器は古びてはいるが、鏡や年代ものと思われるレトロなタオル蒸し器はピカピカに磨き上げられている。
客待ちスペースには石油ストーブ、天井近くの三角コーナーには、かつてブラウン管テレビが置かれていたと思われるスペースに今は液晶テレビが置かれている。店の奥、住居部分へとつながる引き戸もなんとも年季が入っている。
東京都清瀬市の「つばめ」は自称「鉄道ムードの床屋」。店主の趣味が高じたのか、一歩店内に入れば待合席は古い列車の座席、天井からはつり革、壁には駅名標や行き先標と、鉄道グッズで埋め尽くされている。きっと散髪中も、同好の客と話がはずんでいることだろう。
かと思えば、実際に現役の駅の一角にある床屋さんもある。
JR小浜線加斗駅の「ヘアーサロン塚本」(福井県)だ。駅入り口に立派なサインポールが掲げられ、駅舎内の切符売り場の横が店への入り口だ。
店はもともとが駅前にあったが、借地の関係で立ち退きとなり、住人たちに請われて駅舎内に移転したという。そう、床屋は街になくてはならないオアシスのような存在なのだ。
ほかにも、隣に立つ神社の鳥居に倣ったかのように神社風の建物の「ヘアーサロン ヨシノ」(茨城県結城市)や、かつては最先端のモダンな建物だったことがひと目で分かる栃木県栃木市の「若松」など、重ねてきた歳月が風格となって表れる老舗があるかとおもえば、店内はもちろんサインポールの中までおびただしい数の仮面や仏像などのオブジェで埋め尽くされ、椅子と鏡がなければもはや何の店舗なのか一目では分からない大分県別府市の床屋さんまで43店を紹介。
それぞれの店が積み重ねてきた時間の堆積までを写し込んだような作品を見ていると、世代を超えて住人たちが通う床屋は、町の歴史が刻まれた文化遺産にも見えてくる。
(風人社 1650円)