「日航123便墜落事件隠された遺体」青山透子著
「日航123便墜落事件隠された遺体」青山透子著
520人の犠牲者を出した日航123便墜落事故から39年。毎年8月12日には御巣鷹の尾根への慰霊登山が報じられるものの、世間は過去のこととして忘れかけている。しかし、これを「事故」ではなく「事件」として真相究明を続けている人がいる。
著者は元日本航空国際線客室乗務員で、その後、東大大学院で学んだ。国内線時代に事故機のクルーと同じグループで乗務していたことから、事故の調査研究を始めた。日米の公文書や関連資料を精査して、「日航123便 墜落の新事実」「日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす」など、6冊のノンフィクションを書いている。被害者家族によるボイスレコーダーの情報開示裁判にも長く関わってきた。
7冊目に当たる本作では新資料によって衝撃の事実が明らかになった。新資料とは、事故対応に当たった病院の看護師たちがまとめた追悼文集の中のある記述。遺体の検視が始まった1985年8月14日の深夜、遺体安置所で遺体の清拭や縫合を担当していた宮部晴美さんは、特別な遺体を目にした。ほかの人とは別の入り口から運び込まれ、他の人とは違う厚手の毛布にくるまれていた。警察官が「機長です」と言った。墜落現場から自衛隊のヘリコプターで運ばれてきた機長の遺体は全裸。制服がすでに脱がされていたこともほかの遺体とは違っていた。激しく骨折してはいたが、全身がそろっていた。
この新事実に著者は驚愕した。なぜなら機長発見が伝えられたのは8月30日。しかも遺体は焦げて炭化し、歯型が身元確認の決め手になったと報じられてきたからだ。群馬県医師会による検視資料も宮部さんの証言を裏付けるものだった。なぜ事実は隠されたのか。
39年前の事件にまた新しい謎が加わった。その背後に国家の意思が見え隠れする。事件はまだ終わっていないのだ。 (河出書房新社 1980円)