「ヒロシマへの道」池田大作著/第三文明社(選者:佐藤優)

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被害を詳細に調査したうえでの小説なので説得力がある

 今年で、1945年8月に広島と長崎に原子爆弾が投下されてから80年になる。ロシア・ウクライナ戦争で核兵器が再度使用される危険がある状況で、ぜひ、読んで欲しい作品だ。著者の池田大作氏は、創価学会第3代会長だ。池田氏が中学生を対象にこの小説を書いた。

 夏休みのある日、中学2年生の一城は八重子おばさんに会うために広島に出かける。一城は、八重子おばさんから被爆体験を聞く。

<京橋川の岸辺は、逃げまどう人でいっぱいだった。ほこりと血にまみれ、幽霊のようにさまよっている。/前へたらした手の先から、何かがぶら下がっている。よく見ると、はがれた皮膚であった。親にはぐれたのか、幼い子が泣き叫んでいる。それが突然、ぱたりと倒れたかと思うと、もう動かなくなった。/あちこちから、火の手があがっていた。猛烈な勢いで、燃え広がっていく。火炎は天空をこがし、火の粉はとぐろを巻いて流れ、そのなかを真っ黒になった人々が、よろめきながら逃げていく。地獄があるとすれば、こうした光景だろうか>

 池田氏は、広島の原爆被害について詳細に調査した上で、この小説を書いているので、強い説得力がある。

<世界には、今も戦争をしている国がある。人類は相変わらずたくさんの原爆をかかえている。いつになったら、本当の平和はくるのだろう。/これからのぼくたちこそ、戦争も原爆もない平和な世界を築いていかなくちゃならない。それには、もっと勉強して、うんと体を鍛えて、どんなことにもへこたれない、そして困っている人を助ける“平和の心”を強くしておくことが大事だ>

 ロシア・ウクライナ戦争に関して、池田氏はSGI(創価学会インタナショナル)会長として、停戦を訴える提言を2度行った。ロシア、ウクライナのいずれの立場をも支持せず、宗教人として“平和の心”を基点にして、命の保全を訴えたのだ。トランプ米大統領誕生後、各国のエゴが強まっている。ロシア・ウクライナ戦争、ガザ紛争のような地域的武力衝突を世界大戦に発展させないためには“平和の心”が何よりも重要だ。 ★★★

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