「宮﨑優画集つむがれゆく縁」宮﨑優著
今新たなブームになりつつあるという美人画の最先端に位置する気鋭の日本画家による作品集。
ページを開いてまず目に飛び込んでくるのは、可憐な着物姿の少女たちだ。百花繚乱のピンクの振り袖を着た少女の頭上に匂い立つような満開のしだれ梅が描かれる睦月(表紙)に始まり、ちょっと大人びた渋い小紋の着物に紫色の柔らかなショールをかぶった少女と木蓮の花を合わせた「弥生」、さらに濃紺の朝顔柄が染め抜かれた浴衣姿でアジサイに水をやる「水無月」など、往年の「着物カレンダー」を彷彿させる季節に合わせた着物と花を組み合わせた作品12枚が並ぶ。
彼女たちが身につけた着物の精緻な表現に瞠目。着物や帯の柄はもちろん、帯揚げや帯締めの質感、さらに、絹や絣、綿など、触らずともその生地の素材までが伝わってくる。
驚くことに著者は、高校の美術科で美術の基礎は学んだものの日本画の技法は独学で身につけたという。にじみ止めのために画面となる紙や布などの基底材に塗る礬水(膠とミョウバンの混合水溶液)の「引き方」から始まり、すべて図書館に通ったり、動画などで学んだ。
着物の描写では、糊置きや金描線などの友禅の技法なども参考にしているそうだ。
さらにページを進めると、雨が上がったのか、蛇の目傘をさしていた青地の着物の少女が散る桜に気づいてふと空を見上げる「晴天を仰ぐ」という作品の次のページでは、同じ着物を着て手に蛇の目傘を持った少女が桜吹雪の中にたたずむ「風光る」と題された作品が並ぶ。
2人は同一人物のようだが、前者ではおろしていた黒髪を後者は結い上げ、ずっと大人びて見える。
同じように、不死鳥が舞う緑地の振り袖を着た女性や、浴衣姿でシャボン玉を吹く女性など、同じ着物を着た少女が違うポーズで描かれる連作が並ぶ。
かと思えば、1作品だけではあるが、木版画による浮世絵の美人画もある。木版画では日本画とは異なる美しいグラデーションをつくり出すことができ、染めの着物の表現ができることに驚いたそうだ。
一枚一枚をじっくりと眺めていると、まなざしの変化や手のしぐさなどから、それぞれの少女たちの物語が立ち上がってくるようだ。
少女たちの美しさもさることながら、まさに季節を着るような和装の美しさ、奥深さにも改めて気づかされる。実は在日コリアンである著者は、着物や浴衣にはほとんど馴染みがなかったそうだ。しかし、結婚後に暮らし始めた山口の花火大会では浴衣率が高く、幼児から高校生まで女の子たちが浴衣姿で花火を見ている姿を見て、着物の魅力に気づいたという。
色鉛筆などで写真さながらの精緻な風景を描いていた初期作品から、日本画を始める前のタッチが少々異なる少女画、そして最新作まで著者の画業を一望する。
(芸術新聞社 3080円)