「コミュ力は『副詞』で決まる」石黒圭氏
「コミュ力は『副詞』で決まる」石黒圭著
「やっぱり」「実は」「なるほど」など、生活の中で多用されているにもかかわらず、あまり意識されない「副詞」。本書は、そんな「副詞」にスポットを当て、その重要な役割や意味、さらにその功罪について解説している。
「日陰者扱いされがちな副詞ですが、『お腹、すいてる?』と聞かれたときに、『全然』と答えれば通じることからわかるように、生活の中でたくさん使われています。話し言葉では、副詞だけで済ませてしまうことも珍しくなく、『ホントに、ホントに』など口癖になって連呼するケースもみられます」
副詞には、①「描写性」②「程度性」③「予告性」④「評価性」⑤「期待性」の5つの性質があり、これらすべてが、話し手の主観に関わっている。たとえば、「釣れた魚が『めっちゃ』大きかった」と、その大きさの程度を示されても、聞き手はそれが事実かどうかはわからず、あくまで話し手個人の主観が伝わる。
また、つい使ってしまう「やっぱり」も、自分の考え方が無意識に出る副詞だ。なぜなら、言葉を口にする前に元の考えがあり、別の考えも検討したけれど元の考えに戻ったことが表されるので「やっぱ、女は……」といえば、元の考えが推測できるからだ。ほかにも「たぶん」を連発すれば自信のなさが、「ぶっちゃけ」を言いすぎれば口の軽さが伝わってしまう。「ガチで」と聞けば、若者が浮かぶだろう。
「使う副詞で思考の過程、好き嫌い、性格、価値観、世代など、全部バレるんです」というからあなどれない。
「副詞は、選び方ひとつで相手に与える印象が変わります。『ひとえに』『さながら』など和語副詞を適切に使いこなせると、洗練された大人の印象を相手に与えることができますし、『一斉に』などの数字の『一』の付いた副詞を使えると知的に見えます。副詞は、文章に必ず入れなくてはいけない要素ではないからこそ、聞き手もそこに敏感に反応するんですね」
本書では、「『わざわざ』会場まで来てくれてありがとう」などのように、副詞を加えることでプラスの効果を発揮するケースが紹介されているほか、「『また』ミスしたの?」など副詞によって隠していたはずの本音が露呈してハラスメントに発展するケースなど、逆効果になる副詞の使い方についても解説。コミュ力向上の鍵となる、副詞の使い方のコツが満載だ。
ちなみに国会答弁でよく耳にする「真摯に」「丁寧に」「しっかりと」などは、責任は横に置いて、自らを取り繕うのに便利な副詞。なるほど、疑問符が付くタイプの政治家が愛用するわけだ。
「仕事のマッチングサイトを研究したとき、応募者を多く集めるには金銭面などの条件だけでなく洗練された言葉遣いの文章が何より大事だとわかりました。特に上から目線感のある『当然』『しょせん』などの副詞を使うと応募率が明らかに下がります。文字が主役のSNS全盛の世界で、私たちは自ら発信する言葉が頼りの時代を生きています。相手が信頼できる人なのか、つながったら危険な人なのか見極めるツールとして、そして自分自身を再発見する鏡として、本書をきっかけに副詞に興味を持っていただけたらうれしいです」
(光文社 990円)
▽石黒圭(いしぐろ・けい)1969年生まれ。国立国語研究所教授・共同利用推進センター長、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。早稲田大学大学院博士後期課程修了。「文章は接続詞で決まる」「よくわかる文章表現の技術」「大人のための言い換え力」など著書多数。