鉄道ニッポンの哀れ
「時刻表が薄くなる日」上岡直見著
かつて国の大動脈といわれた国鉄(現JR)の路線網。いま私鉄もふくめた鉄道ニッポンは危機に瀕している。
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「時刻表が薄くなる日」上岡直見著
昨年は日本の鉄道創業から150年という歴史的な年だった。ところが政府はそれに逆行するかのように、輸送量の減ったJRのローカル線を片っ端から廃止にする方針を発表した。
鉄道路線の確保は国民への福祉の第一歩というのが近代国家の常識。しかし、「民営化」の旗印をかかげて始まった新自由主義経済の荒波は30年後に世界と日本を直撃したコロナ禍を口実に、公共の福祉を削減する勢いを強めている。
公共交通は「人権」だという著者は、JRの時刻表を子細に眺め、東京を起点とした各都道府県庁所在地への所要時間が減っているのに比して、各県庁所在地間の所要時間が増えているという。前者は新幹線の整備によるものだが、後者は逆に地域間輸送のサービスが低下している表れなのだ。
著者は鉄道駅がある市町村区をマークした日本地図と、各駅の1日あたりの利用者数が1万人以下のところを切り捨てた地図を比較する。後者の地図では日本全国がまだら模様以下に白くなるのがわかる。著者はこれを「国のかたち」が変わる重大な懸念事項だという。
実際のところ政府がいうのとは裏腹に鉄道事業は不採算ではない。多数のグラフやデータを駆使し、鉄道ニッポンの未来に強く警鐘を鳴らしている。 (緑風出版 2970円)
「交通崩壊」市川嘉一著
「交通崩壊」市川嘉一著
日本の交通行政は「部分最適」の集合体だという著者は元日経新聞記者の交通ジャーナリスト。近視眼的な効率性だけを見て、一地域だけに限らない地方や日本全体の将来を見越した政策や運営を怠っている、と直言する。特に目につくのが地域公共交通の衰退。3年前には「地域公共交通活性化再生法」など2つの法律が施行されたが、遅きに失した感は否めない。驚いたことに「公共交通」という文言を法律名に入れたのは21世紀になってからというのだ。
現状では観光路線として人気のローカル線まで次々と廃止の対象になりつつある。鉄道は一度やめるとおいそれと再開できない。本書は終章でデジタル化された自動運転車の現状などもリポートしている。 (新潮社 902円)
「地図から消えるローカル線」新谷幸太郎編著
「地図から消えるローカル線」新谷幸太郎編著
ローカル線がゴトゴト走る姿はニッポンの懐かしい風景の一部。しかし、いまそれが消えようとしている。
野村総研アナリストの著者は、コロナ禍のせいで輸送量が激減したことを鉄道苦境の第一の理由に挙げるが、人口減少問題の影響も大きいという。
JR各社の乗客数の推移と見通しを表した野村総研の推計によると、若年層の都心集中が進む大都市では比較的軽微な減少にとどまるが、地方部の落ち込みは大きい。
特に2030年代には各路線の輸送密度(より多くの乗客がより長く乗車する度合いを測る指標)の減少は顕著になる。鉄道は路線の維持などの固定費のコストが大きく、動燃費(電気代・燃料代)が低いのが特徴。
幸いコロナ禍からの回復基調は堅実さを見せているが、行政側には大局を見渡すビジョンが求められているのだ。 (日本経済新聞出版社 990円)