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「ソングの哲学」ボブ・ディラン著、佐藤良明訳

 伝説のウッドストック野外フェスから来夏で55年。若者文化の代名詞だったロックは、いま?



「ソングの哲学」ボブ・ディラン著、佐藤良明訳

 まさかのノーベル文学賞で世界があっと驚いた。かつて、フォーク歌手として頂点を極めたのが著者。いわば現代の吟遊詩人となったことが評価されたのだろう。

 本書はディランが自分が長年なじんできた古今の歌をひとつずつ取り上げ、解説を加える。むろんフォークソングだけではない。ボビー・ベアの「デトロイト・シティ」のようなカントリーあり、ジミー・ウェイジズの「テイク・ミー・フロム・ディス・ガーデン・オブ・イーブル」のようなロックンロールあり、いまではジャズのスタンダードになったボビー・ダーリン「マック・ザ・ナイフ」ありと多彩なことこの上なし。

 ちなみに訳者はディランの自作詞集「The Lyrics」も全訳したことで知られる。このときと同じく、著者は翻訳に際して、日本語版独自の解説や訳者あとがきなども入れるのを禁じたらしい。版元のホームページには、訳者が全曲についてひとつずつ解説を加えたうえにユーチューブにリンクを張って原曲を見聞きできるような工夫までしてくれているのがうれしい。

 人々が愛した各時代のはやり歌に心と魂の生きる哲学が宿っているのだ。

(岩波書店 4180円)


「ロックの正体」樫原辰郎著

「ロックの正体」樫原辰郎著

 ロックを語ることばは熱い。情熱の激しさが共通の持ち味だ。だが、「もう少し落ち着いてロックを語れないものか」と長年考えてきたという著者は60歳手前の映画監督。ロックの衝動的で破壊的なふるまいが、時代の心を捉えた理由を解き明かしたいというわけだ。

 ロックは黒人と白人の音楽の融合から生まれたが、黒人から白人への音楽の伝播は越境や貿易のようなもので、イノベーションが起こりやすい条件下にあったという。クラシックなら厳しい教育と訓練が必要だが、黒人の模倣から始まったロックは突然変異的な進化が訪れ得る。意外な出会いが刺激になるわけだ。

 時代も戦後で、10代の若者が消費者になる素地が整いつつあった。かくてラジオなどのメディアの発達を背景にロックはあっというまに世を席巻したのだ。音楽理論より認知心理学や社会学や哲学を駆使しながら独自の考察を重ねている。

(晶文社 2200円)


「女パンクの逆襲」ヴィヴィエン・ゴールドマン著、野中モモ訳

「女パンクの逆襲」ヴィヴィエン・ゴールドマン著、野中モモ訳

 反抗の音楽ロックの中でも最も反抗的なのがパンク。実は周知のとおり、ロック界はオトコ中心。グルーピーに手を出すミュージシャンなど当たり前とされた世界だ。プリンスやキッド・クレオール、トーキング・ヘッズなどが女性メンバーを加えるまで長い時間がかかったのも確かだし、ギャラも男と差をつけられることがしばしばだった。

 そんな中で、イギリス出身の著者は音楽ジャーナリストとしての経験を積み、今ではニューヨーク大学に彼女のレゲエとパンクのレコードコレクションが収められているという。

 本書は70年代以降の女性パンクたちがキラ星のごとく並ぶ。基準は音楽性の高さと女パンクとしてのオリジナリティー。ロックが本当に反抗的だったのはごく一時期で、あっというまにビジネスになったが、パンクは技術の洗練も無関係の「本物のカウンターカルチャー」だった。

 西海岸の芸能界が送り出したゴーゴーズやランナウェイズなどの評価は高くないが、「軽佻浮薄なパンクロックの楽しさ」は認める。

 大阪出身で日本より世界で認められた少年ナイフもちゃんと登場するのがいい。

(Pヴァイン 2970円)


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