著者のコラム一覧
嶺里俊介作家

1964年、東京都生まれ。学習院大学法学部卒。2015年「星宿る虫」で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。著書に「走馬灯症候群」「地棲魚」「地霊都市 東京第24特別区」「昭和怪談」ほか多数。

エドワード・ゴーリーは絵本を通じて、世界が含み持つ残虐性を子供に提示した

公開日: 更新日:

楽しむために子供を殺し続けた「おぞましい二人」はなんと実話

 最初に彼の話題作となった『うろんな客』では、突然現れた小さな生きものが家に住み着いて、壁に落書きをしたり、蔵書を破いたり、喚き散らしたりして、これでもかと迷惑行為を繰り返します。なぜ家人は追い出さないのかと首を傾げていると、その正体にあっと驚くことになります。

蟲の神』では、行方不明になった幼い女の子の運命が描かれます。両親や警察が必死になって女の子を捜索しますが、連れ去られた女の子は容赦なく蟲の神の生け贄になります。背後に見え隠れするのは人身売買組織でしょうか。

不幸な子供』で描かれるのは、小公女セーラを想起させる女の子。心正しい幼い子が、ひたすら堕ちていく姿がえんえんと続きます。

 強烈なのは『ギャラシュリークラムのちびっ子たち』。26人の子供たちが死んでいく様が展開します。

「かいだんおちた」「ごろつきのえじき」「けんかのまきぞえ」──。

 もう勘弁してください。心が蝕まれます。壊れます。

 いや、これは作り話だから。創作だから──と、なんとか心の平静を保っていた読者に対して、ゴーリーは容赦なく痛烈な一撃を加えます。

おぞましい二人』(河出書房新社:1320円)。

 2人の男女が、ただ楽しむために子供を殺し続けます。その数、5人。

 実話である。彼は、とうとう創作と現実世界との垣根を取っ払った。しかも刊行時、犯人は2人とも存命していて、服役中だったという。

 読後に心を落ち着かせる時間が必要になるので、読書に当たっては余裕をもって時間をとらねばなりません。

 最近は、書店の数が激減しているとのこと。

 アナログからデジタルへ、紙媒体から電子媒体へと移行しているのが主な要因でしょうが、慣れ親しんだ書店文化が縮小していくのは、なんとも寂しく哀しい思いが否めません。

 幼い子の前に絵本を広げて読み聞かせる親子の触れあいも、いまは昔となりつつあるそうな。いずれタブレットなどの電子端末に置き換わるのかもしれません。

 おのれ書店経営を圧迫した万引き犯ども。呪ってやる。



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