山崎ナオコーラ(作家)
8月×日 新幹線で北九州市へ向かう。「源氏物語」について北九州市文学館と九州芸術祭文学カフェでトークをするのが目的だ。わたしは北九州市生まれだ。とはいえ久しく訪れていないのでガイドブックを買う。地球の歩き方編集室編「地球の歩き方 北九州市」(Gakken 2200円)。バックパッカーをしていた頃によく買っていたレーベルだ。このところは、感染症や円安などの影響で私も外国旅行を控えて近場や内省的な旅を極める気持ちになっていたが、もしかしたらガイドブック界もそうなのだろうか。北九州市って、福岡市に押され気味の地味な市かと思いきや、充実したページだ。特にこの土地に縁がない読者でも、想像の旅を楽しめそう。小さい市って、いいよね。
8月×日 8歳と4歳の子どもは古代文明好きだ。東京国立博物館に連れていき土偶や土器をながめる。譽田亜紀子著「こんだあきこの わたしの偏愛遺跡旅」(新泉社 1980円)は、「世界で唯一土偶に養われている女」を自認する譽田さんがあちらこちらの遺跡を巡っていくエッセーだ。頭部のない墓の話や、人が人を食べた話などがさらりと出てきて、遺跡を見るとは生き死にを考えることなんだな、と思う。
8月×日 スズキナオ著「家から5分の旅館に泊まる」(太田出版 2090円)を読む。旅行エッセーのジャンルだが、近所の旅館にふらりと出かけたり、「ワーケーション」という仕事を混ぜ込んだ旅をしてみたり、驚くほど軽い旅だ。友だちの話を聞くように読める、居心地の良い本だ。
8月×日 台風で閉じ込められ、地球の歩き方ガチ冒険事業部編「地球の歩き方 ガチ冒険」(地球の歩き方 110円)を読む。これも地球の歩き方レーベルだが、ガイドというよりエッセーだ。それにしてもタイトルがいい。大きく出ているが、旅行好きサラリーマン4人がつらつらと失敗談などを並べ、くすりと笑わせてくるだけ。いや、本人たちは必死なのだろうが……。そうだ、これも冒険だよな。私達は、軽かろうが短かろうが自分よがりだろうが、いろいろな旅を冒険と呼んでいいのかもしれない。