角川春樹さんから「作家の証明書になる作品を」と突然依頼された森村誠一氏

公開日: 更新日:

 そんな中、ふと引き出しを開けると一枚の紙が目に入った。そこに書いてあった「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね――」という詩を読んで、急に20年ほど前の学生時代のことが頭によみがえってきたのです。その頃、私は留年中で今で言う“自分探しの旅”に出て、ひとり霧積を訪れました。その時に宿が用意してくれた弁当の包み紙なのですが、「いい詩だな」と思って保っておいたんですね。

 これは、昭和の詩人・西条八十の書いた詩で群馬県・霧積を舞台にしたもの。「母と子の情愛」があふれる素晴らしい作品で、私も「このテーマで行こう」と決めました。そこでタイトルを「人間の証明」に切り替え、1カ月ほどで一気に書き上げることができました。

 その後、77年の映画化に伴い、北海道から九州まで主要都市でキャンペーンを張りました。ひとつの都市で2、3店の主要書店でサイン会を行い、映画館で舞台挨拶もやった。目の回るような忙しさでしたが、当時はまだ若く、張り切っていたので何とか達成することができました。

 そもそも、私が作家になろうと思ったきっかけは、出生地の熊谷での日本最後の空襲体験です。当時の私はまだ12歳。近所の川にはおびただしい数の遺体が折り重なり、川底が見えないほどでした。戦争は国民の命だけではなく各人生を破壊します。この惨状をいつか文字にして残したいと思い、それから何が何でも作家になりたいと考えるようになりました。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    前田健太「ドジャース入り」で大谷との共闘に現実味 日本復帰より「節目の10年」優先か

  2. 2

    井桁弘恵ショートカットで“山之内すず化”が加速! 「そっくり問題」いよいよ待ったナシ

  3. 3

    大阪万博は開幕1カ月を待たずトラブル続出…場当たり説明でGW後半の盛り上げムードに水を差す協会の大罪

  4. 4

    巨人阿部監督はなぜ田中将大にだけ甘いのか…2試合連続炎上でさすがに二軍調整も

  5. 5

    小田和正「77歳の現役力」の凄み…現役最年長アーティストが守り続ける“プロ意識”

  1. 6

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  2. 7

    ダウンタウン復帰が外部資金でコンテンツ配信のナゼ…松本人志に浮上した疑惑の顛末

  3. 8

    斎藤元彦・兵庫県知事が頑迷に貫く「治外法権」…公益通報を巡る国の勧告もガン無視

  4. 9

    もしやり直せるなら、入学しない…暴力に翻弄されたPL学園野球部の事実上の廃部状態に思うこと

  5. 10

    巨人阿部監督が見切り発車で田中将大に「ローテ当確」出した本当の理由とは???