バイト生活から着想 足立紳氏が語る「百円の恋」執筆秘話
苦節20年、遅咲きのシナリオライターがいる。安藤サクラ(30)主演の映画「百円の恋」で脚本を担当した足立紳氏(43)だ。3月の第39回日本アカデミー賞で最優秀脚本賞を受賞し“時の人”となり、今夏初めてメガホンをとる――。
大手配給会社の作品が注目される賞レースで、単館系「百円の恋」が脚本賞と主演女優賞の2冠に輝いた。業界関係者を驚かせた授賞式から2カ月。本人いわく「想像以上の反響」で、早くも十数本の映画の脚本依頼が来たという。ブロンズ像とともにゲットした賞金50万円は「嫁さんの口座にスライドされるので、僕の手には……」と苦笑いする。
同作に「ハマり過ぎた」という編集者からのラブコールを受け、2月には初の小説「乳房に蚊」(幻冬舎)を刊行した。タイトルは尾崎放哉の句「すばらしい乳房だ蚊が居る」をオマージュしたもので、妻の稼ぎで生計を立てるダメ男の生活ぶりが生き生きと描かれている。実生活でも4歳年下の妻と結婚して14年、2人の子どもを授かりながらプー太郎同然の不遇期を支えてもらっただけに、「嫁さんには今も、いや、一生、頭が上がりません」。
■99円ショップでバイトする日々から着想
転機が訪れたのは2012年、山口県の周南映画祭に新設された脚本賞「第1回松田優作賞」で「百円の恋」がグランプリに選ばれてから。同作は2年前の10年に書き上げた時に複数の映画会社に売り込んだが、まるで相手にされなかったという。
「僕も武正晴監督もどこの馬の骨とも分からない人間。ホンを持ち込んでもなかなか目を通してもらえませんでした。松田優作賞受賞を機に営業し直して映画化にこぎつけたのです。『百円の恋』は自宅近くの99円ショップでバイトする日々から着想を得た作品。賞に応募する頃には町の99円ショップは100円ショップに姿を変え、タイトルも『99円の恋』から『百円の恋』に。そんなふうに時を経て、ようやく日の目をみました」
足立氏が描く世界は「割とせせこましい話が多い」と謙遜する。スピルバーグのような壮大な映画が作りたくて18歳の時に上京したが、「その頃からすでに日本映画界全体が物凄くビンボーだった。もともとの資質がそうだったとはいえ、僕のビンボー思考を後押ししたのは、映画の製作現場が置かれる状況もあるような気がします」。
映画好きの両親の影響を受け、小さな頃から映画に携わる職業に憧れていた。小学校の卒業文集に書いた将来の夢のひとつは「映画監督」。今夏にクランクイン予定の映画「14の夜」では監督デビューも果たす。「文章を書くのは大の苦手で、国語の通信簿は『2』ばっか。他の教科も『2』ばっか」だったという足立少年。
日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、10年越しの夢の世界に足を踏み入れたのは、“鬼監督”として知られる相米慎二氏のアシスタントからだった。