連載小説<1> 錦糸警察署からすぐ来いと電話が…
トイレを出て部屋に向かっていると、壁越しにスマホの着信音が聞こえた。
ホー・ヴァン・クエットは慌ててドアにかけたダイヤル式の南京錠を外し、部屋に入った。すぐにテーブルの上に置いたスマホをつかむ。登録していない番号からの着信だ。
「はい、もしもし……」クエットは電話に出た。
「ケイシチョウのスギハラと申しますが、ホー・ヴァン・クエットさんの電話でよろしいでしょうか」
男性の声が聞こえたが、ケイシチョウという言葉が頭の中で変換できない。
自分の電話であることは間違いないので、とりあえず「はい、そうです」と答えた。
「ケイサツツウヤクニンの登録をされていますよね」
相手の言ったケイサツツウヤクニンという言葉を頭の中で何度か唱える。警察通訳人と変換でき、ようやく相手の素性と用件を理解した。
一年半ほど前に、東京にある警察署を束ねる警視庁というところで通訳を募集していると知り、登録した。初めての連絡だ。
「これから通訳をお願いしたいのですが、いかがでしょうか」