松井紀美江さん 悪女役で引っ張りだこも“声”に悩んだ過去
■丹波哲郎氏からの熱烈オファーが転機に
さて、鎌倉育ちの松井さんが芸能デビューしたのは高校3年だった17歳。友人が受けたアイドル歌手のオーディションに付き添っていったところをスカウトされたのがきっかけだ。
「でも、歌手より女優の方が早く芽が出ちゃって、高校卒業前に郵便為替のテレビCMに出たのが最初でした」
卒業後すぐにNHK大河「新・平家物語」(72年)に侍女役で出演、順風満帆かに見えた。だが、実はそうではなかったと松井さんは言う。
「私の声って、よく言えばハスキーボイス、悪く言うとドスの利いた低音じゃないですか。今でこそ、それで仕事のオファーをいただくのですが、当時はまだ20歳ソコソコ。何百人もの中から数人の最終審査に残っても、最後の最後で『容姿は文句なしだけど、声がなあ……』って落とされました。悔しくて何十回となくトイレで泣いたものです」
心の傷が大きくなるばかりだったため引退。しかし故・丹波哲郎氏から「その声がいい。他にはいないじゃないか」と熱烈なオファーがあり、1年余りのブランクを経て復帰。再デビューは大竹しのぶ主演のNHK連続テレビ小説「水色の時」(75年)のウエートレス役だった。