炎上作「バイバイ、ヴァンプ!」を改めて真っ当に考察する

公開日: 更新日:

 ネタバレ込みで、ざっくりと、本当にざっくりとあらすじを書くと、ある日、町に噛まれると同性愛に目覚める吸血鬼・ヴァンプがやってくる。その目的は主人公の抹殺とこの町を「ソドム」に変えることだ。主人公は、自分では知らなかったのだが、実はヴァンプと人間のハーフだった。ヴァンプの世界では不老不死のために子孫を残す必要はなく、同性愛がマジョリティー。よって主人公の父親は異性愛者だったために異端者として処刑されてしまったのだという。そしてヴァンプたちは息子である主人公をも処刑しにきたというわけだ。最終的に、キリスト教の歌の力でどういうわけかヴァンプにされた人々は浄化され、主人公は好きな女の子への愛を貫いた結果、想いの子と結ばれ、ハッピーエンドとなるわけだが……。

 製作者の言い分としては、「愛を貫いて壁を乗り越えること」を描いているという。だが、この映画でそれがどのように形になっているのか。異性愛者の主人公が、壁を乗り越えて思いを寄せる女の子と結ばれるのだが、その壁が皮肉なことにヴァンプ・同性愛者なのである。しかし現実に同性愛者の人々が直面している差別や、いまだ乗り越えられない壁に比べたら、この作品で描かれる壁はいわゆる「ファンタジー」ではなかろうか。さらに少し厳しい言い方をすると、この作品自体が同性愛者にとっての一つの壁になりかねない。漫才におけるボケを見てみればわかる通り、笑いというのは異物に対するリアクションであり、その視線の先にあるものがマイノリティである場合、私たちには慎重に判断しなければならない。何かを異物とするとき、そこにはまぎれもなく壁があるのだ。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  4. 4

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 5

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  1. 6

    桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」《麦巻さん》《鈴さん》に次ぐ愛されキャラは44歳朝ドラ女優の《青葉さん》

  2. 7

    江藤拓“年貢大臣”の永田町の評判はパワハラ気質の「困った人」…農水官僚に「このバカヤロー」と八つ当たり

  3. 8

    天皇一家の生活費360万円を窃盗! 懲戒免職された25歳の侍従職は何者なのか

  4. 9

    西内まりや→引退、永野芽郁→映画公開…「ニコラ」出身女優2人についた“不条理な格差”

  5. 10

    遅すぎた江藤拓農相の“更迭”…噴飯言い訳に地元・宮崎もカンカン! 後任は小泉進次郎氏を起用ヘ