不世出の名優渡哲也さん 最期まで貫いた昭和ダンディズム

公開日: 更新日:

「人生なるようにしか、なりませんから」

 病魔との闘いの連続だった故渡哲也さん(享年78)は、そう達観したような人生訓を語った後、こう続けていた。

「呪っても、恨んでも始まらない。地味にならず、なまぐさく、若い女の子にちょっかい出すくらいでいきますよ」

 端正なマスク、抜群の存在感、頑強な肉体を武器に映画ドラマと活躍した渡さんだったが、若い頃から晩年まで病魔とは隣り合わせの人生だった。NHK大河ドラマ「勝海舟」(1974年)撮影中に急性肝炎を起こし無念の途中降板。後に膠原病と判明し入院を余儀なくされた。故石原裕次郎さんから社長を引き継いで以降も直腸がん、急性心筋梗塞による大手術に臨み、肺気腫にぜんそくといった持病もあり、死因となった肺炎まで、闘病は78年の生涯続いた。

「被災地への炊き出しなどで、常に人の苦しみ、痛みに寄り添った優しさ、器の大きさは痛みや苦しみを身をもって知っていたからではないでしょうか。でも痛いとも苦しいとも、決して言わないんです」と、渡さんを知る芸能関係者は振り返る。

■男惚れ

 高校時代からファンだった裕次郎さんと初対面した日活撮影所の食堂では、挨拶回りをしたスターの中でただひとり席から立ち上がり、自分から頭を下げてくれた裕次郎さんに心酔。裕次郎イズムを継承し、後進に伝え続けた。まさに男惚れ。有名なのが映画「ある兵士の賭け」で6億円の負債を抱えた石原プロの門を叩いた時のエピソードだ。

「これ使ってください」と全財産180万円を裕次郎さんに差し出した。当時のサラリーマン4年分の給料相当であった。ビートたけしは「俺が芸能界でこの人に教わったのは、お店に行って若手がいたら先に勘定払って帰っていくっていうのがある」とTVでこう語った。

「何げなくやって帰っちゃうんですよ。かっこいいなって」

 石原プロの2代目社長となってドラマ「西部警察」の撮影に臨んだ2003年、見学していたファンの列に車が突っ込んでしまった時は、負傷したファンの入院する病室に駆けつけ土下座。「大切なファンを傷つけてしまった。私たちにドラマを作る資格はありません」と制作中止を発表した。言い訳を一切しない潔い謝罪、危機管理能力の高さも伝説となっている。

「渡さんは2011年に2代目社長の座から退くのですが、その理由がまた凄い。社長職の在位が裕次郎さんと同じ24年になり、『先代より長くなってしまうわけにいきませんから』というのです」(スポーツ紙芸能デスク)

「誰にも知らせないように」

 その石原プロも、来年2021年1月16日をもって、58年の歴史に幕を閉じる。渡さんは「自分の目が黒いうちに石原プロモーションの看板を裕次郎さんにお返ししたい」と言っていたという。「自分が死んだら即会社をたたみなさい」との裕次郎さんの遺言を常に念頭に置いていたそうだ。

 自らの最期について渡さんは妻俊子さんにこう伝えていたという。

「訃報は、葬儀などすべてが終わるまで誰にも知らせないように」

 自分のことで人を巻き込みたくないという配慮だろう。訃報が伝えられたのは、14日に家族葬が営まれた後であった。裕次郎さんの甥でタレントの石原良純は「このままでは寂し過ぎます」と舘ひろしに電話し、追悼式典などを開催するよう涙ながらに訴えたという。

 昭和のスターは最期までダンディズムを貫いた。芸能リポーターの城下尊之氏はこう言う。

「俳優渡哲也さんは、長ゼリフを滔々と聞かせるというのではなく、どちらかというと、短い一言をビシッと決めるタイプでした。物静かで決して高ぶらない、にもかかわらず、伝わってくる圧倒的な存在感。あれこそがスター、今で言うオーラだと思います。つくりだそうとしても、まねしようにもできないものなのです」

 不世出の名優が泉下の人となった。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    「アッコにおまかせ!」存続危機 都知事選ミスリードで大炎上…和田アキ子には“75歳の壁”が

  2. 2

    都知事選敗北の蓮舫氏が苦しい胸中を吐露 「水に落ちた犬は打て」とばかり叩くテレビ報道の醜悪

  3. 3

    石丸伸二氏に若者支持も「上司にしたくない?」…妻や同級生の応援目立った安野貴博氏との違い

  4. 4

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 5

    日テレ都知事選中継が大炎上! 古市憲寿氏が石丸伸二氏とのやり取り酷評されSNSでヤリ玉に

  1. 6

    松本人志の“不気味な沈黙”…告発女性が「被害受けた認識ない」有利な報道に浮かれないワケ

  2. 7

    石丸伸二氏は都知事選2位と大健闘も…投票締め切り後メディアに見せた“ブチギレ本性”の一端

  3. 8

    東山紀之はタレント復帰どころじゃない…「サンデーLIVE‼」9月終了でテレビ界に居場所なし

  4. 9

    安藤美姫が“不適切キャラ”発揮ならメディアは大歓迎? 「16歳教え子とデート報道」で気になる今後

  5. 10

    「アンメット」のせいで医療ドラマを見る目が厳しい? 二宮和也「ブラックペアン2」も《期待外れ》の声が…

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    都知事選2位の石丸伸二氏に熱狂する若者たちの姿。学ばないなあ、我々は…

  2. 2

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    竹内涼真“完全復活”の裏に元カノ吉谷彩子の幸せな新婚生活…「ブラックペアン2」でも存在感

  5. 5

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  1. 6

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  2. 7

    二宮和也&山田涼介「身長活かした演技」大好評…その一方で木村拓哉“サバ読み疑惑”再燃

  3. 8

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 9

    小池都知事が3選早々まさかの「失職」危機…元側近・若狭勝弁護士が指摘する“刑事責任”とは

  5. 10

    岩永洋昭の「純烈」脱退は苛烈スケジュールにあり “不仲”ではないと言い切れる