森田童子の引退10年後「ぼくたちの失敗」がミリオンセラー
ロフトのステージで森田童子は、決して上手じゃなかったギターを弾きながら、ボロボロと涙を流しながら歌っていた。
客席には小汚いジーパンをはき、ヨレヨレのコートの襟を立て、小脇に文庫本を抱える<孤独でネクラな雰囲気を醸し出している男>ばかり。
ライブ中、いつも会場はシーンとしていた。
あの狂おしい政治の季節が終わり、世間は<可愛らしい夢><小さな幸せ><素晴らしき人生>を渇望していた。彼女は<憂鬱><絶望><孤独><自殺>といったキーワードを掲げた曲を愚直に歌い続けた。挫折感に打ちひしがれ、時代に置いていかれる焦燥感にさいなまれた<学生運動崩れ>の男性ファンは、森田童子の世界観にグイグイ引きずり込まれた。
暗くて沈んだ歌声と評されるが、か細くて透明感のある歌声だったと私自身は思っている。
67年の羽田闘争で京大生・山崎博昭さんが命を落としたことを契機に高校生だった彼女は学生運動に深入りし、そして恋人だった大学生のO氏が自殺してしまう……。