萩本欽一「運の神様はいる」幸運は不運な時にこそ芽生える
「若者にはもう少し貪欲さが欲しいですね」
コロナが蔓延してから間もなく1年。気を病む人、自粛生活に疲れ果てた人が増えている。この難しい時代を乗り切るにはどうしたらいいのか。
「1つは愚痴をこぼしたり、ヤケにならないことですね。目の前にある現実を嘆いたり、不平不満を口に出すと運はだんだんと消えていくの。もう1つは人知れず努力をすること。これにはちょっとしたコツがあって、運の神様が見てくれそうな時間帯や日を狙うといいですよ。ぼくは視聴率100%時代、基本的に正月三が日は部屋にこもっていろいろ考え事をしていました。周囲が酒を飲んでドンチャン騒ぎしている時にこっそり頑張っていれば、運の神様がぼくに気付いて応援してくれると思ったからです」
欽ちゃんの話はコロナ禍で対象者に配られた一律10万円の給付金の使い方にも及んだ。
「幸運もお金も人の間をぐるぐる回っています。すべての人が同時に得をすることなんてあり得ません。コロナで生活に困った人が10万円を使うのは大正解。ただ、困ってもないのに『損をしたくない』と思ってお金を貯め込んでしまった人は運の“流れ”を止めちゃった。そこで悪い運を呼び込んでしまった可能性があります。脅すわけじゃないけど、困った人に救いの手を差し伸べると運が良くなりますよ。ぼくは近所の小さなお店でジャムパンを買い、『コロナに負けるな、応援金!』と、馴染みのおばちゃんに1万円を渡しました。本音を言えば、そのお店が潰れたら自分が一番困るからなんだけどね」
■いくつもの問題に同時に直面したら
ただ、コロナ禍前から「老後資金2000万円を確保せよ!」と不安をあおる向きもあった。
未婚率の上昇や晩婚化で「得しよう」と思わなくても、現実的に、お金の問題と向き合わざるを得ない機会が増えている。
「でもね。仕事、お金、健康、家庭、友達……この5つの中から1つしか運は得られないというのがぼくの持論。欲張ってがっついちゃダメ。たとえば、仕事がうまくいっている時は、仕事以外の運は望んじゃいけません。だけど、もしいや応なく同時進行しなくちゃいけない局面に遭遇したら、心の中でこっそり優先順位をつけるといいんじゃないかな。順位をつけるのが難しかったら、とりあえず家庭を優先するといいと思います。家庭といっても形は人それぞれ。独身なら誰かと暮らしてもいいし、動物や魚を飼ったり、鉢植えの花を家族に加えてもいいと思います。犬や猫、金魚は人間より寿命が短く、死ぬ前に病気もするだろうから、悪い運を持っていってくれます。ただし、一生懸命かわいがらないと、彼らに行くはずだった不運が人間に来るから大切にしないとね」
欽ちゃんは関根勤(67)、小堺一機(64)といった弟子だけでなく、構成作家集団「パジャマ党」の育成に尽力したことで知られている。今でもコメディアン志望の若者の発掘を続けている。
「最近は芸のレベル以前に自分で勝手に答えを導き出しちゃう若者が増えている気がしますね。オーディションで『合格』と言って、次の選考にわざと呼ばずにいるとそのまま連絡が途絶えてしまったり。ぼくが『合格』と言ったんだから図々しく来ればいいの。もう少し貪欲さが欲しいですね。『貪欲』と『欲張る』は全然、違います。あとは『自分はこれが好き、あれはダメ』という子も、残念ながら芸の世界には向いていません。まず相手に喜んでもらうのがこの仕事ですから。2021年は面白い子と巡り合えるかなあ」
(取材・文=岩瀬耕太郎/日刊ゲンダイ)
▽はぎもと・きんいち 1941年、東京・入谷生まれ。66年、坂上二郎と「コント55号」結成。70年代後半~80年代には「欽ちゃんのどこまでやるの!」「欽ドン!良い子悪い子普通の子」などで「視聴率100%男」の異名をとる。「ダメなときほど『言葉』を磨こう」(集英社新書)など著書多数。