『白鍵と黒鍵の間に』の濃厚なジャズ的リアリティ。そして「博」と「南」の間に…
3歳しか離れていない博と南はよく似ている。注意力が乏しいうえに予備知識もなく観たぼくは、恥ずかしいことにまったく見分けがつかなかった! 監督の本来の意図とは違うであろう〈二役の仕掛け〉に長~いこと翻弄され、気づいたときにはもう取り返しがつかぬレベルで作品の妙味を実感しそこねてしまった。試合前夜の睡眠薬が効きすぎて本番中ボーッと過ごしたポンコツ選手のごときである。これを読むみなさんは同じ愚を犯さずに済むかと思うと、心の底から妬ましいですよ正直。
お気づきのようにこの作品にはマジックリアリズムの性格がつよい。ガブリエル・ガルシア=マルケス、大江健三郎、あるいは中上健次あたりの小説が好きな人はハマるんじゃないか。夢を追う熱い博と、夢を見失って冷めた南。どちらも魅力的に描くところに監督の真意がある。
博になぜか執着する音楽好きのヤクザ「あいつ」を怪演する森田剛、自らの確かなギターの腕にも処世の具以上の意味を求めないバンマス「三木」を好演した高橋和也、このふたりが際立ってよかったことも記しておこう。怪作にして快作。