鶴橋康夫監督との出会いが役者としての大きな転機に
主演時代劇「三匹が斬る!」を継続しながら90年代前半、役所広司は他にも意欲的に単発ドラマに出演した。恋人を死に至らせたことに苦悩する医師を演じた「サハリンの薔薇」(91年・TBS系)や樋口可南子扮するヒロインを幻惑する魔術師に扮した「冬の魔術師」(92年・NHK)などの市川森一脚本作、豊田商事事件をモデルに金に魅入られていく男女を描いた、出目昌伸監督の「金の夢は血に濡れて」(92年・テレビ朝日系)、山田太一脚本で500万円の盗難事件をきっかけに、役所と名取裕子、柄本明が奇妙な縁で結ばれる「悲しくてやりきれない」(92年・TBS系)など、注目を集めた作品が目白押し。決まりきったキャラクターで魅了する娯楽時代劇のスターだった役所は、これらの単発ドラマによって繊細に人間の心を表現する、現代劇の演技派俳優へと変化していった。
また新宿歌舞伎町の麻薬の売人に扮して、ショー・コスギ演じるNY市警の覆面捜査官と香港マフィアに立ち向かうアクション「極東黒社会」(93年)で、久々に映画にも復帰。夫の愛人問題に悩みながら昭和の時代をたくましく生きた秋吉久美子扮するヒロインを描いた「紅蓮華」(93年)にも助演し、ここから映画俳優・役所広司の快進撃が始まっていく。 (つづく)
(映画ライター・金澤誠)