ラブレターズのKOC優勝が下積み中の「オジサン芸人」に与えたもの。夢を追い続けるのはいばらの道か?

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コクハク

KOC2024王者・ラブレターズの功績

 最もコントがおもしろい芸人を決める「キングオブコント2024」(TBS系)が10月12日に開催され、ラブレターズが17代目王者に輝いた。1本目から点差が開かない接戦を制しての見事な優勝。華々しくトロフィーを手にしたラブレターズを、現役のお笑い芸人はどうみるか。

 別名義で活動する現役芸人であり、かつては年間100本以上のライブに出演した経験もあるという帽子田(仮名)は以下のように考察する。

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夢みたいな展開で優勝を掴み取った

 ラブレターズの優勝は、芸人にとって、まさに鮮烈だった。ネタの好き嫌いはあるので、ラブレターズの優勝に納得していない視聴者の人もいるかもしれない。最近のお笑い賞レースは点差が開かない傾向にあるが、今回は1点差を争うほど拮抗していたので、本当に審査が難しい回だったのだろう。

 だから、ラブレターズは一般的に見て「他コンビを面白さで圧倒して勝利!」という印象ではないだろうが、僕たち売れない芸人にとっては「鮮烈な」優勝だった。

 コットンやロングコートダディ、ニッポンの社長などの人気者を抑えて、ラブレターズの15年を詰め込んだような「ラブレターズらしい」ネタで王座を掴み取った。下積みを長く積んだ売れていない芸人にとっては、目が眩んでしまうほど羨ましい光景だった。

「ラブレターズらしい」とはどういうことか。あくまで僕の評価だが、「派手な演技と息もつかせない展開で、想像がつかないボケを畳みかけてくる」という点が魅力だと思う。

 ただ展開が早すぎたり、ボケが突飛すぎたりして、お笑いを見慣れてない人や正統派なネタが好きな人には受け入れられないことも多い。今でこそキングオブコント王者になった彼らだが、挑戦的なネタをやりすぎて舞台で信じられないくらい滑っているのを何度も見たこともある。

 それなのに大衆に寄せすぎることなく、自分たちが一番やりたいネタをあの大舞台でぶつけて優勝するなんて、売れない芸人が書く「なろう系小説」みたいなストーリーだ。

ラブレターズに感化されたオジサン芸人たち

 そんな夢みたいな光景を見せつけられたことで、地下芸人界隈で悲劇が起こっている。ラブレターズはメディア露出はほぼないが、ライブや地下劇場で腕を磨き、芸歴15年目にして優勝。もうじき40歳になる。

 昨年のサルゴリラに続いて下積みの長いコンビの優勝に、僕をはじめとしたオジサン芸人たちが「俺たちももう少し頑張ったら、賞レースで優勝して日の目を見ることができるのでは!?」と夢見てしまったのだ。

 この現象は2021年に「M-1グランプリ」(テレビ朝日系)で錦鯉が優勝したときも巻き起こった。最年長で優勝を勝ち取った錦鯉に感化されて、下積みの長い漫才師たちが露骨にボルテージを上げ出した。

M-1「錦鯉」優勝とは異なる意味を持つ

 その時のコント師たちは「まあまあ、錦鯉は元々地下でもカリスマだったし、錦鯉になるなんて夢のまた夢だよ」という達観スタイルだった。しかし、今回はそうも言ってられない。

 ハナコ霜降り明星が優勝して第7世代が台頭してきた頃は、ブレイクを夢見て下積みを続けてきた仲間のオジサン芸人たちが「もうこれくらいが潮時かな…」と見切りをつけて辞めていった。華とセンスがある若手芸人を目の当たりにして、何年やっても売れる気配のない現実を受け止められたのだろう。

 仲間が去っていくときは何とも言えない悲しい気持ちで満たされたが、社会復帰していく人たちを引き留めるのも酷な気がした。日本社会全体で見たら「売れない芸人」とは名ばかりのフリーターより、真面目に働く正社員が増えた方が良いだろうし。

 それなのにラブレターズやサルゴリラの鮮烈な優勝をみて、「諦めなければ自分たちも優勝できるかもしれない」という可能性を夢見てしまった。

 それは甘美な夢だけれど、絶望的でもある。また一年売れない芸人生活を過ごしてしまうことになり、再就職の機会を逃し、社会に帰るのが遅くなるからだ。

夢を見続けるのは「いばらの道」か

 そもそも下積みを長く積んだ芸人にとって、「芸人を辞める」という決断はとてもつらい。

 夢を諦めることに対する拒否感はもちろんあるが、「人前でネタをやってウケる」という現象が非常に中毒性が高いからだ。日常生活であの幸福感は味わえない。それを長年経験してしまうと、社会復帰が遅れてしまう。

 だからこそ、お笑いを辞めたくないから、辞めなくていい理由やモチベーションを探しながら芸人生活を続けている。その辞めなくていい理由に「ラブレターズの優勝」が関わってきてしまうのだ。

 賞レースは芸人たちに夢を与える存在である。しかし、その夢を与えた結果、またいばらの道を歩かされる芸人もいるのは事実だ。

 それでも、僕は夢がある人生は不幸ではないと思う。何かをきっかけに、自分がずっと憧れていた場所に手が届く瞬間を夢見て努力することは、正直何ものにも代えがたいくらい楽しいからだ。

 だからこそ言う。「ラブレターズの優勝は、僕たちオジサン芸人に夢を与える素晴らしいものでした」。

(帽子田/芸人、ライター)

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