「効かなくなったら抗がん剤は中止する」そんな文書に落ち込む患者もいる
「気持ちが落ち込んでいる患者の話を聞いて欲しい」
卵巣がんが再発したAさん(54歳)の担当医であるB医師から、こんな依頼を受けました。
Aさんはがん性腹膜炎で腹水がたくさんたまっている状態で、病室を訪ねた時は点滴で抗がん剤を入れている真っ最中でした。言葉をかけると、Aさんは話し始めました。
「この間、B先生に『抗がん剤の効き目がなくなってきたので、もう治療は終わりにしましょう』と言われました。私は『いま終わりではなく、また効くかもしれないからもう少し続けてください』と無理にお願いしたのです。障害のある娘のことを考えるといまは死ねません。それで、無理して続けていただいたのですが、私、もう頑張れません。ずっと頑張ってきたのに、もう頑張れないのです……」
Aさんは半年前、主治医と看護師さんと家族の前で「治療が効かなくなったら、抗がん剤治療は中止します。その後の延命の治療はしません」と記載された文書にサインをしたといいます。その時は本当にそれでいいと思ったのに、まさかこんなに早く効かなくなるとは思っていなかったそうです。そして、いまになって「続けて欲しい」と無理に頼み込んだことを気に病んでいらっしゃる様子でした。