“裾野”が広がり医師を目指す学生の質が落ちている
3月いっぱいで順天堂医院の院長職を退いて「一教授兼一外科医」に戻り、これからは若手医師の指導や育成にもさらに力を注いでいくつもりです。近ごろ、医師を目指す若い学生の質が落ちていると感じるだけになおさらです。
私が医学部に入学した1970年代後半に比べ、いまは医学部の定員が増えています。そのうえ、少子化によって同学年の受験者数が減っているので、われわれの世代よりも20倍くらい医学部へ入学しやすくなっています。そうした“裾野の拡大”もあって、いまは「なんとなく医者になりたい」といった漠然とした動機で入学してくる学生も増えているのです。医師という職業への使命感、「世のため、人のために働く」といった思いが希薄な学生も増えた印象です。
指導する教員の姿勢も学生にとって情熱的に感じられないのかもしれません。小中学校の頃から、学業成績が良い学生には本人の意思とは関係なく医学部へ進むように誘導する傾向も見受けられます。さらに、医学部を目指す学生には、中学生の頃から「○○大学医学部の合格圏内に入るには、これとこれだけをやっておけばいい」といったピンポイントの教育を繰り返します。これでは学生の質が落ちるのも当然でしょう。