術後20年を考えると「グラフト」はやはり動脈が優れている
狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の患者さんに対する外科的治療の大きな柱になっているのが「冠動脈バイパス手術」です。細くなったり詰まってしまった冠動脈の代わりに他部位の血管(グラフト)を使ってバイパス血管をつくり、心筋への十分な血流を確保できるようにします。
グラフトには、患者さん自身の血管を使用します。つくるバイパスの本数や血管の状態によって変わってきますが、内胸動脈(胸板の裏にある動脈)、右胃大網動脈(胃の周囲の動脈)、橈骨動脈(手の動脈)、大伏在静脈(足の静脈)といった血管が使われます。
ただ、長期にわたって心臓を補助できる耐久性を考慮すると、グラフトとしてベストなものは「動脈」です。とりわけ内胸動脈は個体差がほとんどない血管で、いちばん動脈硬化が起きにくいため、グラフトとして最適です。
これに対して「静脈」は、患者さんによってひどく傷んでいるなど個体差が非常に大きい血管で、耐久性も劣ります。そのため、将来的に再手術が必要になるケースも多くなります。
今年2月、そうしたバイパスに使うグラフトを検討した研究が海外で報告されました。多枝冠動脈病変(複数の冠動脈が詰まっている)があり、冠動脈バイパス手術を行う患者において、「両側内胸動脈グラフト(動脈+動脈)」と、「片側内胸動脈グラフト(動脈+静脈)」の長期予後を検討したところ、10年後の全死因死亡率に有意差は認められませんでした。