認知症在宅介護 子供の肉体的精神的負担を喜ぶ親はいない
老人介護施設で管理栄養士として働く30歳の知人女性が、あるエピソードを話してくれた。
ある日、施設で火災や地震に備えた避難訓練が行われたそうだ。スタッフが戸外に入居者を誘導すると、認知症の高齢者が楽しそうに、そして競い合うように歩きだしたのだという。「なぜ楽しかったの?」とたまたま見舞いに来ていた娘が入居者である母親に尋ねると、こう答えたという。
「運動会でカケッコしたの何年ぶりかしら」
認知症ゆえの事実誤認とはいえ、在宅介護時代には見せたことのない笑顔だったという。
私は「自宅介護=親が幸福」「介護施設=親が可哀想」というステレオタイプの発想には疑問の念を禁じ得ない。認知症に限ったことではないが、フィナーレまでお互いにカンファタブル(快適)な関係を維持していくために、在宅介護以外の選択をもっとポジティブに考えるべきだ。子どもの肉体的、心理的負担を喜ぶ親はいないのだから。