iPS細胞による再生医療が広まるには議論を深める必要がある
費用の問題は、治療の対象となる患者さんが絞られてしまう可能性につながってきます。かつて米国では、心臓移植は最重症の心筋症の患者さんが対象でした。しかし、全身状態が非常に悪い患者さんは術後の生着率やQOLが低いため、費用対効果が考慮されてターゲットが変更されました。もう少し条件の良い、これからどんどん悪くなっていく段階の人、悪くなりきる手前にいる人を対象にするようになったのです。
今回、大阪大で実施されるiPS細胞による治療は、最悪な状態の少し手前の患者さんがターゲットになっています。しかし、結果によっては、有効性と費用のバランスが考慮され、さらに手前、たとえば「いまは薬で管理できているが、いずれ悪化していく可能性が高い」段階の患者さんが対象になる可能性もあるのです。
そうなると、最重症の段階にいる患者さんが置き去りになってしまう懸念が出てきます。“治しがいのある人”が選別されかねないのです。今回の臨床試験では、有効性、安全性、費用も含めたさまざまな課題についてしっかり検討し、議論をより深めていく必要があります。