「コロナで死ぬのは嫌」気になる患者と初めて言葉を交わした
その中でも、Gさんが気になった人がいました。たぶんGさんと同じ年代で、身長170センチくらい、眉毛が太く、くちびるが厚いブスッとした男性です。時に、そのギョロッとした目とGさんの目が合ってしまうのです。
同じ腫瘍内科に通っているのですから、がん患者に違いありません。きっと向こうもGさんの顔を覚えていると思いますが、一度も声をかけたことも、かけられたこともありません。「Jさん」と呼ばれて診察室に入っていったので、Jという名前なのでしょう。特に何があってというわけではないのですが、なぜか、このJさんがGさんの心に留まっていました。
もちろん、そんな外来での出来事は、自宅に帰ればすっかり忘れてしまいます。山と庭、畑を見れば、まったく違う自然の世界に浸れるのです。
■がん患者はハイリスク
前回、外来に訪れた頃から新型コロナウイルスが流行していて、テレビのニュースではこんな田舎村の近くでも陽性者が数人出たと報じられていました。コロナで亡くなった人の話を聞くと、Gさんは「がん患者は感染のハイリスク、がんで死ぬか、コロナで死ぬか?人間たかだか100年。考えたって仕方ないかも」と思ったり、「死んだら甥っ子にこの家と畑を継がせるか、村にあげてしまうか」などと漠然と考えたりしていました。