可能性があったはず…「縦隔腫瘍」だった若者をいまも思い出す
■腫瘍が消えた前例があった
この前年、私は同じ「縦隔腫瘍」で若い男性2例に化学療法を行い、いずれも完全に腫瘍は消えた(5年経って再発なく完治)ことを経験していました。少なくとも私の心の中では、「こんなにがんが進んでいても勝つんだ。絶対に良くなるように頑張る」との思いがありました。
もう治療は待ったなしです。翌日からの抗がん剤治療だけではなく、大きな腫瘍が急に崩壊する時に起こる高尿酸血症など、さまざまな状況を想定して点滴などの指示を出しました。
抗がん剤の点滴を終えて3日後、やや症状が良くなってきた感じがありました。ところが、朝10時ごろ、Fさんは急に顔面が真っ青になり、呼吸困難、ショック状態となりました。昇圧剤などの緊急処置を行い、至急で撮ったX線写真では右肺が真っ白になっていました。すぐに呼吸器外科医を呼び、右胸膜にドレーンを入れたところ真っ赤な胸水が出てきました。
がんからの出血です。気管挿管、人工呼吸器装着、緊急輸血など、呼吸器外科医と一緒にヘトヘトになりながら頑張り、この時はなんとか血圧は70㎜Hgまで回復しましたが、胸膜に入れたドレーンからの出血は続きました。