中国深圳・男児刺殺事件 日中関係の悪化を食い止めた父親の手紙を慟哭して読んだ
しかし、「私たちは中国を憎んでいません。同様に、日本も憎んでいません」とつづる。「私は、歪んだ思想を持つ一握りの卑劣な人々の犯罪によって両国関係が損なわれることを望んでいません。私の唯一の願いは、このような悲劇が二度と繰り返されないことです」
さらに続けて、「○○(原文では男児の実名)が以前、私に『将来お父さんのようになりたい』と言ったことがあります。一時の気まぐれかもしれませんが、その言葉を父親としてこの上なく嬉しく思いました。私は日中貿易に従事し、日本と中国の架け橋としての役割を担っています。(中略)今私にできることは、彼に誇れる人間になれるよう全力を尽くし、日中相互理解に微力ながら貢献し続けることだけです。これは最愛の息子への償いでもあり、犯人への復讐(ふくしゅう)でもあります」。
息子を殺した犯人の動機が日中関係を壊すことだったとしたら、息子の死の悲しみを乗り越え、よりよい日中関係を築いていくことが、犯人への復讐になるというのである。
息子が10年と8カ月と7日間を私たちの傍で過ごしてくれたことを感謝すると結ぶ。
凍てついた日中関係を溶かすのは、この夫婦の流す熱い涙かもしれない。 (文中敬称略)
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)