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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

いち早く再開し攻める高島屋は百貨店の今後を占う“試金石”

公開日: 更新日:

村田善郎社長の評価はウナギ上り

 高島屋の経営サイドが再開を決断した裏には何があったのか。

「村田善郎社長が強く推したんです。自社の社員はもちろん、取引先についても従業員の生活や雇用を守らなければならないと主張。緊急事態宣言が継続している地域にある店舗でも、食品以外の売場の再開に踏み切ったのです」

 こう話すのは高島屋の中堅社員。昨春、社長に就いた村田氏については「ぶれない強さを持っている」と社内外でその評価はウナギ上りだ。

 村田はさまざまな分野を経験。ワインや紳士服の売場を経て、ベルリンの壁崩壊直後のドイツに駐在。新宿店の出店準備にも加わった。OBは次のように話す。

「村田さんにとって、もっとも大きかったのは労働組合での経験でしょう。専従や委員長を歴任。同じく労組委員長を務めた日高啓さんは高島屋で初めて創業家以外から社長に就いた人物。いわば、労組の役員は出世コースでもあるのです」

 村田氏は90年代末、上部団体の商業労連の役員も務めた。百貨店業界はバブル期の91年、6兆円を超える売上を計上しピークを迎えたが、その後は転落の一途。村田氏が商業労連役員に就くころには、地方の百貨店が次々に閉店していた。

「そうした店舗の従業員が苦しむ姿を目の当たりにして、経営者がいかにあるべきか、感じるところがあったのでしょう。それが今回の素早い営業再開にもつながったのだと思います」(OB)

 もちろん、営業再開しなければ、話は始まらないが、今後の見通しを立てるのはそう簡単ではない。そもそも、新型コロナウイルスの影響をまだそれほど受けていない20年2月期(19年度)ですら、決算数字は悪かったのだ。

■4月は80~90%台の急激な落ち込み

 売上高(営業収益)9191億円は0.7%増でかろうじて増収を保ったものの、計画比は1.5%下回った。営業利益は256億円(4.0%減)で減益を記録した。

 コロナ禍がもろに直撃した4月は緊急事態宣言の翌日の8日以降、多くの店舗で食品売場以外は休業。食品以外の分野は前年同月比80%台から90%台の落ち込み。これは当然としても、営業していた食品までも42.6%減と大きくマイナスを記録してしまった。

「他の売場が閉まっていると、わざわざ百貨店に来て食料を購入するお客様は減ってしまうということ。普段は百貨店でウインドショッピングをしたあと、食料を購入していくようなお客様はスーパーマーケットのほうにまわってしまったのです」

 前出の中堅社員はこう言って嘆く。実際、多くのスーパーマーケットではコロナ特需に沸いている。百貨店で食料を購入していたいわゆる中間層がスーパーに逃げてしまっているのだ。

 4月13日に開かれた決算説明会では、「中間層の消費が厳しくなるのを受けて、フロア構成を見直すことはあるのか」という質問が出た。それに対し、会社側は次のように回答した。

「富裕層向けだけに店舗をシフトさせることはしない。中間層のお客様から支持されることなしに、百貨店の存続はありえない」

 まさに庶民派の村田社長の姿勢が垣間見える回答だが、むしろ問題は国内の購買層よりもインバウンド需要である。

「いずれは国内のお客様は戻ってくると思いますが、インバウンドはまったく見通しが立たない。ここ3カ月はほぼゼロの状態ですが、これが1年以上続くと、壊滅的な事態を招きかねない」(中堅社員)

 海外の拠点も危機的な状況が続いている。シンガポール高島屋はスーパーだけ営業。約3万6000平米の広さを持ち、一昨年11月、鳴り物入りでオープンしたタイ・バンコクのサイアム高島屋も食品売場とフードコートだけ営業している。ベトナムのホーチミン高島屋は全館休業だ。

「上海高島屋が4月から通常営業を再開しているのが救いです。インバウンドよりは、海外のほうが期待は持てるかもしれません」(同)

 いずれにしても、大手百貨店の中でもっとも攻めの姿勢を見せ先行しているのが高島屋であるのは確か。百貨店の今後を占う試金石になりそうだ。

【連載】緊急リポート 百貨店の断末魔

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