<第5回>「僕の通帳はどこ?」に女将さん激高「お金より稽古でしょ!」
「あんたはそんなこと気にしなくていいのよ!」
その言葉を聞いた瞬間、女将さんの目が三角になった。
すでに引退した某部屋の某力士の話だ。ある時、ふと自分の貯金が気になって、女将さんに「僕の通帳どこですか?」と聞いた。
力士の給料は銀行振り込み。この部屋では幕下以下の力士の通帳は、親方夫婦が管理している。当初は力士も「何で?」と思ったが、慣例ならば従うしかない。それでも疑念が湧き、通帳そのものを見ようとしたのだ。
激高した女将さんはこう続けた。
「ちゃんと私たちが管理してあるから、心配しないでちょうだい。お金のことなんかより、稽古に励みなさい!」
取り付く島もないといった様子に、力士も引き下がらざるをえなかった。
だが、力士の不安は当たっていた。それがわかったのは引退した直後だ。18歳で入門し、幕内に上がれないまま30代前半で引退。本場所手当は2カ月に1度しか出ないとはいえ、通帳は管理できず、カードも持たせてもらえないのだから、使いようがない。