リオ五輪メダル量産12個 日本柔道“お家芸V字回復”の軌跡
ロンドン後に、一度はどん底に落ちたのは確かだ。惨敗の責任を取って男子の篠原信一前監督が退任。女子の園田隆二前監督も強化選手15人から暴力体質を告発される前代未聞のパワハラ騒動に巻き込まれ、辞任に追い込まれた。
さらに、ふたりの後見人だった吉村和郎前強化委員長には、助成金の不正流用疑惑が発覚。こちらも職を追われるなど、日本柔道は相次ぐ醜聞にまみれたが、「一連の問題で強化体制が一新された。今回の日本柔道躍進の要因のひとつにはまず、彼らの退陣が挙げられます」と、ロンドンに続いて現地取材するノンフィクションライターの柳川悠二氏がこう続ける。
「前体制では、首脳陣と選手の間に信頼関係がまったくなかったと言っていい状態でした。精神論に終始し、例えば合宿では朝の走り込みから始まり、午前は寝技、午後は乱取りと、とにかく猛練習で選手を追い込むスタイル。オーバーワークでケガ人が続出しましたが、故障を理由に大会を欠場すれば、気持ちが弱い、と精神面を問われる。前近代的で画一的な考え、指導法に選手には不満が鬱積していました」
重量級コーチとして前体制に関わっていた井上康生現男子監督は、選手との信頼関係の欠如、コミュニケーション不足を改善する必要性を痛感。就任会見での「時代に合った技術や練習方法を考えたい。戦術戦略面でも日本人は研究され、丸裸になっている。医科学を含めた強化も必要」との所信表明は、前体制を反面教師にしたものだった。前出の柳川氏が言う。