プロ野球は6月開幕濃厚 OBが語る「無観客試合かく戦えり」

公開日: 更新日:

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、6月以降の開幕を目指すプロ野球。すでに開幕している台湾、韓国同様、「無観客」で滑り出すことが濃厚だ。無観客による公式戦は史上初。戦い方、心得はあるのか。「大観衆」と「閑古鳥」の両方を知る球界OBに聞いた。

■あえて登板直前までダッシュ(門倉健二氏)

 まずは中日の門倉健二軍投手コーチだ。門倉コーチは現役時代、中日、近鉄、横浜巨人、カブス、韓国SK、韓国サムスンの日米韓の7球団を渡り歩き、巨人時代やパ・リーグの二軍戦、米国マイナーリーグのオープン戦など、大観衆と数少ない観衆、ほぼ無観客状態のマウンドの両方を経験している。

「僕の場合、お客さんがいればいるほど、緊張感が増して、集中力が高まる方でした。そんな大観衆の中で自分のパフォーマンスを披露するのがプロの喜びだと思います。無観客での公式戦となると、やはり『気』の入り方が変わってくるかもしれません。球場が賑やかだと、余計なことを考えないで投げられますが、静まり返っていると興奮しないので、変に冷静になり過ぎてしまう。いろいろなことを考えちゃうんじゃないでしょうか」

 観客がいないメリットはあるのか。門倉コーチが続ける。

「あまり一軍経験のない若手や新人などの場合、球場の雰囲気にのまれることはないので、冷静に自分の力を発揮できるかもしれません。投手は静かなブルペンで投球練習をして肩をつくり、試合開始になると大観衆の前に飛び出していく。何万人もの声援が下っ腹に響くので、経験の浅い投手は、大抵これにやられます。二軍のコーチをやっている関係で、若い投手を見て感じるのは、ブルペンであんなにいい球を投げられるのに、いざ試合が始まると、まるで別人になってしまう。自分の球が投げられない投手が多いこと。マウンドで雰囲気にのまれてしまうんですね。ただ、無観客なら、そういうケースが減るかもしれません」

 自身はどうだったのか。

「僕はセの中日からパの近鉄に移籍した時に感じましたね。近鉄の二軍戦で投げた時です。お客さんが100人弱の試合もありましたから、いかに緊張感や集中力を保つかをいつも考えていました。あえて登板直前までダッシュを繰り返したり、ブルペンで全力投球を多めにして、呼吸が荒くなった状態でマウンドに上がったり。二軍戦なら、ある程度は抑えられる自信があったし、結果より、いかに一軍の試合に近い状態で投げられるかを考えていました。今は二軍コーチの立場として『一軍の試合のつもりで緊張感を持って投げなさい』と若い投手には伝えています」

■満員なら球速が5キロアップ(高橋善正氏)

 パの東映(現日本ハム)時代に完全試合を達成し、セの巨人へ移籍。その後、巨人などで投手コーチを務めた評論家の高橋善正氏はこう言う。

「スタンドが満員だと、アドレナリンが出て実力以上のものを発揮できることがある。投手が興奮状態でマウンドに行くと、球速が5キロほどアップするなんてことがよくある。打者ならスイングに気持ちが乗り、数メートル飛距離が伸びることもある。これが本塁打か外野手に捕球されるかという差になるかもしれない。ファンの声援は、それだけ選手を後押ししてくれます」

 ただ、今季は開幕できるか断念するかというギリギリの状況だ。

「今年に限っては、たとえ無観客でも選手たちは『やっと野球ができる』という高揚感を持って臨めるはず。問題は何カ月か経ってマンネリ化した頃です。それでも無観客が続くようなら、そこからは本当の実力者とそうでない選手の差がはっきり分かれることになる。今のように、自主トレしかできない異例の準備期間の影響と、観客がいないことで集中力を欠く選手が増えて、故障者が続出するかもしれない。スタンドに誰もいなくても、いかに開幕の頃のモチベーションを保ち続けてプレーできるかがカギになります」(高橋氏)

 コロナ禍が終息した後は、たとえ球場に入れなくても、テレビで視聴するファンが増えるという見方もある。

 前出の門倉コーチは「テレビで見るファンは『音』を楽しんでほしいですね。投球を受けるキャッチャーミットの音が聞こえれば、プロの投手がいかに凄い球を投げているか分かります。打球の音や野手の声。ベンチのヤジなんかもテレビを通じて聞こえるでしょう。今年はヤジが丸聞こえ。そうなると、あの時のようなことが起こるかもしれません」と指摘する試合がある。

 2001年、ヤクルト7点リードの九回表に“事件”は起きた。2死三塁から遊ゴロを放ったヤクルトの投手・藤井秀悟(2年目)が、全力疾走で一塁を駆け抜け、巨人ベンチから「この展開でそこまでするのか!」と痛烈なヤジを浴びせられ、泣いてしまった試合だ。

 動揺した藤井は、九回裏のマウンドでガタガタに崩れ、マウンドを降りた。

「藤井はかわいそうでしたが、僕も相手のヤジにイラッとして自分のペースを乱したことがあります。今年はよく聞こえるヤジに投手が動揺して崩れるケースが増えるのではないか。お客さんがいなくても、そういう意味ではメンタルが重要になります」(門倉氏)

 結果を出せるのは、たとえアドレナリンが出なくても、集中力を維持できる「本当の実力者」。あるいは、実力はあっても、これまではスタンドの雰囲気にのまれ、なかなか地力が発揮できなかった「小心者の実力者」。今季はこの2タイプの選手が、目立つことになりそうだ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    岡田阪神は「老将の大暴走」状態…選手フロントが困惑、“公開処刑”にコーチも委縮

  2. 2

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  3. 3

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  4. 4

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  5. 5

    中日・根尾昂に投打で「限界説」…一軍復帰登板の大炎上で突きつけられた厳しい現実

  1. 6

    安倍派裏金幹部6人「10.27総選挙」の明と暗…候補乱立の野党は“再選”を許してしまうのか

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    79年の紅白で「カサブランカ・ダンディ」を歌った数時間後、80年元旦に「TOKIO」を歌った

  4. 9

    阪神岡田監督は連覇達成でも「解任」だった…背景に《阪神電鉄への人事権「大政奉還」》

  5. 10

    《スチュワート・ジュニアの巻》時間と共に解きほぐれた米ドラフト1巡目のプライド