巨人FA加入の梶谷を直撃 苦境にも動じないメンタルの秘密

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梶谷隆幸(巨人・外野手 32歳)

 DeNAから巨人にFA加入した梶谷隆幸外野手が日刊ゲンダイの単独インタビューに応じた。オープン戦初戦から「1番・右翼」で先発出場を続け、7日の日本ハム戦で先制2点打を放つなど存在感を見せている。DeNA時代は左手薬指を骨折しながらクライマックスシリーズ(CS)に出場した一方、故障もあった2018、19年は二軍生活が続き、「トレードも覚悟した」と振り返る。崖っぷちからの生還を果たした昨季は、リーグ2位の打率.323をマーク。なぜ復活できたのか――。球界を代表するヒットマンが大いに語った。

  ◇  ◇  ◇

■4年の長期契約に「プレッシャーはまだない」

 ――FA移籍を決断した決め手は?

「FA権を取る前と取った後の感情が変わったんです。自分なりに頑張ってきて、FA権を取ってやっていく中で、違う感情というか、全く違う環境に身を置きたいっていう思いがすごく強くなった。そういったことがFA移籍につながりました」

 ――DeNA時代はライバル巨人をどう見ていた?

「昔からここぞというところで確実に点を取ってくる。戦っていて勝つことへの執着心が伝わってくるチームだなと、ずっと思っていました。あとは、きっちりとしていて、いろいろ決まりがあって、というイメージだったけど、みんなすごく明るくて活気がありますね」

 ――求められる役割は?

「原監督は1番とおっしゃっていましたので、まずは出塁率ということになるのかな。もちろん打率も長打力も大事ですが、一番は出塁率を上げること。個人的にはそこを求められているというのはあります」

 ――出塁率は4割くらい?

「まだクリアしたことのない数字(20年=・387)なので、すごい挑戦になってくると思いますが、打率プラス1割っていうのを目指します。何とかそういう数字を出したい」

 ――現在32歳。年齢的にも巨人に提示された4年契約というのは長い。大きなプレッシャーにならないか?

「正直、それはまだ感じていません。これから公式戦が始まれば、いろいろプレッシャーがかかってくるのは分かっていますが、今はそこまで大きくは感じていません。確かに僕の年齢からすればありがたい話で、もちろん横浜に残留するか悩みましたし……。求められたことを何とか4年間できっちりやりたいというだけ。だからプレッシャーがないのかな。意気に感じる方が大きいですね」

骨折しながら出場も「大したことじゃない」

 ――16年のCSで左手の指を骨折しながら試合に出て活躍した。ケガに強い選手は原監督好みだが。

「いや、僕はよくケガをする方なので、どうなんだろう(笑い)。あの時はCSという舞台だった。実は骨が折れていてもプレーしている人って、結構いるんですよ。僕はたまたまメディアに出ただけで、大したことじゃありません(笑い)。今思えば、しょうがなかったっていうぐらいですね」

 ――確かにケガに苦しんだシーズンもあった。18年に右肩のクリーニング手術をしたが、現在コンディション面の不安はあるか?

「今のところはそんなに不安もなく過ごせています。体のケアとか、体質改善するためのトレーニングには時間を割いてますし、少しずつでも良くなるようにやっています」

■苦しい時に妻から「大事なのは今とこれから」

 ――18年に手術をしてから翌19年も出場機会が激減。しばらく一軍から声がかからない日々が続いた。

「妻にいろいろ話を聞いてもらって『過去なんてどうでもいい。大事なのは今とこれから』と前を向かせてくれた。心理的にも変わったし、次にどう行動すればいいかを考えるようになりましたね。ダメな時、自分を苦しくしているのは自分。成績が悪いのも自分のせいなんです。妻との話し合いがなければ、妻が支えてくれなければ、昨年、頑張ることはできなかったのかな。それほど、あの時は弱い自分がいましたね。妻は恩人。頭が上がりません」

 ――18、19年ごろにはトレード要員との情報があった。聞いたことはある?

「ありましたね。結構聞きました。でも、トレードの可能性があるかもって聞いたところで、自分が今ちゃんとプレーしていないと何も始まらないって思ったんです。そういう話をあちこちで聞くたびに、自分を戒めたというか、成長できる話が耳に入ったなと思うようにしていました」

 ――それを踏まえて昨季の打率2位につながった? 何か打撃のコツを掴んだ?

「これまで規定打席に届いたとしても、良くて2割7分5厘ぐらいだった。しょうもないなって感じていました。これをずっと続けていても、何も変わらない。ずっと同じスイングをしていても、何も成長しないし、進化しない。何か根本的な部分を変えないとダメなんじゃないかなって思ったんです。賭けじゃないですけど、31、32の年齢でしたし、考え方を全部変えてみようっていうので、それが一言で言うと『逆方向』ということだったんです」

毎オフ繰り返される補強にも動じないメンタリティー

 ――1月の自主トレ公開の際、自身で「こいつ大丈夫かっていう打撃練習している。おまえプロ野球選手かっていうレフト前にしか打ってない」と言っていた。マイペース調整に見えた。

「右投手、左投手で少し違いますけど、キャンプでは基本的に逆方向という感じでやっていました。マシンを打つ時は、同じ目的の日もあれば、違う目的を持った日もある。逆方向に意識を強めている感じですかね」

 ――07年に日本ハムからFA移籍した小笠原(現日本ハムヘッドコーチ)も同じようにキャンプでは逆方向にコツコツ打っていた。

「そうなんですか?」

 ――巨人1年目でMVPを取った「ガッツ流」を取り入れたわけではない? 同じようにトレードマークだったヒゲも剃り落とした。

「いや、それはないですね。もちろん素晴らしい選手で、巨人にFAで入った先輩ですけど、意識しているとか参考にしたとかはありません。もちろん(2年連続MVPなど)すごい実績は知っています。私が語れることは何もありません(笑い)。ヒゲを剃ったのもそうだし、調整法がたまたま似ていたということです」

 ――苦しい時代に心理的トレーニングを取り入れた。

「瞑想とかもたくさん取り入れました。まず今日は何をするのかとか、自分と向き合うっていうメンタルトレーニングを教えてもらって、その中で今日一日をどう過ごすとか、何をするとか、頭で考えて自分と対話をするっていうメンタルトレーニングですね」

 ――それは打席で集中力を上げるため? 

「そこではないんです。集中力が上がったとかというのは分からないんですが、朝やることによって自分の行動、今日一日をどう過ごすかっていうのを明確にすることで、将来の自分を思い描いたり、自分と会話をする。行動が変わるっていう感覚ですかね」

 ――巨人は優勝するために毎年補強を行っている。誰かライバルが入ってきたとか気になる方?

「はっきり言って横浜時代は気にしていました。でも、そういう気持ちは消すようにしました。来年またすごい新外国人選手が入ってきたり、大物日本人がFAで入ってきたりということがあったとしても、気にすることは意味がないと気付いたんです」

■「人に負けたくないってことは一切ない」

 ――メンタルをコントロールできる?

「ある程度は、ですね。僕は負けず嫌いじゃないんです。人に負けたくないっていうことは一切ないんですけど、やっぱり自分には負けたくない。自分が精いっぱいやれることをやる。それしか興味がないというか、人は人でしょという感じ。人の成績なんて僕にはどうしようもない。今はそう思えるようになりました」

 ――他人を気にしないことができれば、巨人で生き残る大きな武器になるかもしれない。

「そう思います」

 ――今年の目標は?

「まずは優勝したい。そのために移籍を決断しましたから。成績どうこうより、まずはみんなの信頼を勝ち取りたい。ジャイアンツというチームに信頼される選手になりたいというのが一番です。強いて挙げるとしたら、2年連続で3割は打ちたいですね」

(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ)

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