著者のコラム一覧
武田薫スポーツライター

1950年、宮城県仙台市出身。74年に報知新聞社に入社し、野球、陸上、テニスを担当、85年からフリー。著書に「オリンピック全大会」「サーブ&ボレーはなぜ消えたのか」「マラソンと日本人」など。

箱根駅伝の名物解説者・碓井哲雄さんを悼む 歯切れの良さにデータの裏付け

公開日: 更新日:

 緊急事態宣言が延長また延長で自粛が続き、いつの間にか秋になりそうだ。本来なら大学駅伝の話題で賑わう頃である。

 現在のところ、10月10日の出雲駅伝を皮切りに23日に箱根駅伝の予選会、11月7日に全日本大学駅伝が実施されることになっているが、あくまで予定。昨年は中止された出雲は今年も慎重で、伊勢路を走る全日本も三重国体を中止しているだけに予断を許さない。箱根予選会は昨年同様、東京・立川の自衛隊駐屯地で無観客で実施の予定だ。

 駅伝は団体競技、すなわち“密”な種目。合宿での走り込みなど欠かせない準備があるが、授業すらオンラインでやっているときに大っぴらな活動は致しかね、クラスターが発生すれば出場どころではない。どこも隠密練習の知恵比べである。

箱根人気の陰の立役者

 箱根駅伝の名物解説者だった碓井哲雄さんが11日に亡くなった。79歳。1964年東京五輪の強化選手で、中大6連覇の最後の2大会のエース。陸連強化コーチとしてはバルセロナ五輪の森下広一のメダル取りにもかかわった。長年、箱根駅伝の解説を務め、偏らない視点と歯に衣着せぬ冷静な分析で長時間番組を支えた、箱根人気の陰の立役者だった。

 碓井さんとはずいぶん飲んだ。話し好きの人で、酔えば次々と駅伝やマラソンのエピソードが飛び出した。

 エリート一家の長男。お父さんは旧制小樽中学から一高、京都帝大でロシア語を学んだが、ありがちに生活力には欠けて、母方の祖母に世話になった。そこが東日本橋の料亭。客の「ひげの伊之助」行司の式守伊之助に可愛がられ、近くの力道山道場で遊び、高校時代は喧嘩ばかりしていた典型的な江戸っ子だ。

「どうにも勝てないヤツがいた。ずっと後にテレビを見ていたら、遠くへ行きたいとか歌って……ジェリー藤尾よ、あの人は喧嘩が強かったんだ」

 解説口調にも喧嘩っぱやいガキ大将の名残があった。中継中に「ばか野郎」「何言ってやがんだ」「てめえやってみろ」という言葉が出かかる。表情で分かるらしく、アナウンサーに机の下でつつかれると笑っていた。

「マネジャーに『おい、水!』なんて態度をとる学生はぶっ飛ばしたくなるよ。長距離はどこまで我慢するかが勝負だ。ギリギリまで我慢した選手はもっと謙虚になる」

 マラソンの選手組合をつくればいいとも言っていた。高校時代から大人に交じって駅伝を走り、争いながら強くなるという思いがあったのだ。奥さんがいなければ電気もつけられない人だったが、データ収集は入念で学生のあらゆる記録をエクセルに打ち込んで箱根駅伝に備えた。歯切れの良さはデータに裏打ちされたものだった。

「花の都には面白いことが多すぎる。オリンピックのマラソン代表に東京出身はいないんだよ」

 東京・町田出身の大迫傑をどう見たか、聞いてみたかった。箱根は貴重な人を亡くした。 

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動