西田智慧子プロが語る 9年ぶりステップアップツアーで“4連続ヤバい”体験

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西田智慧子プロ(55歳)

 人懐っこい笑顔とは対照的に、かつてツアーで勝負強さを発揮してきた西田智慧子プロ。

 9月12日に55歳になったばかりだが、今月初めに自身9年ぶりとなるステップアップツアー「カストロールレディース」(9月1~3日・千葉)に出場。新人ら若手プロに交じって予選通過を果たし、61位だった。

 ステップアップツアー出場のいきさつを聞いてみると――。

「大会1週間前に日本女子プロゴルフ協会からのメールで出場できることがわかり、すでに入っていたレッスン日程を調整して、思い切って出場を決めました。それから急いでPCR検査で陰性判定を受け、千葉の試合会場へ向かいました」

 レギュラーツアーと変わらない距離設定(6420ヤード、パー72)。イン発進の初日は雨模様でボールの転がりも少ない中、終盤の7番から3連続バーディーを奪いパープレー。

「同伴の若手プロに『ヤバいですよ』と言われ、『こういうのをヤバいっていうのね』と話しました(笑い)。ショットはだいたいピンまで2メートルくらいに寄り、その日はすごくパターの調子が良くて入ってくれました」

 アウト発進の2日目も1番パー4で、フェアウエーからやや上りの残り160ヤードを6Iでピン右2メートルにつけてバーディー。

「前日から“4連続ヤバい”ですよ。この時点で予選落ちはしないかなと確信」し、残り17ホールも無難にこなして、余裕を持ってカットラインをクリアした。

 この10年間はレッスン中心の生活だ。コロナ禍による健康志向や東京五輪によって、ゴルフ人気には拍車がかかっており、大忙しだ。

「屋外で行うスポーツであり安心ということもあって、ゴルフ場には結構いっぱい人がいます。レッスンの生徒さんも男性・女性とも若い人が多いですよ。今からゴルフを始めようとする人が増えてきましたね。まったくのビギナーさんにもグリップ・アドレスから教えます」

 どうやって教えているのだろうか?

「ゴルフってクラブの振る方向に体全体が動く。なので、その動かし方から教えます。初心者はクセがないから教えた通り素直にやってくれます」

 現在は月数度のコースレッスンが定着し、一緒に回る時は1組でのプレー。複数組を巡回コーチしながらのラウンドもある。

「私は教えることが嫌いじゃないですね。自分で楽しみながらやっています。生徒さんには上達してもらうことも大事ですが、ゴルフが楽しいと思ってもらうことも大事だと思います。うまくいって喜んでいる時など、ああよかったなと感じます」

ゴルフ経験がなく「バットを振ってみろ」でプロ育成面接に合格

 20歳からゴルフを始めた西田智慧子(55)。岐阜・多治見西高ソフトボール部のエースで主力打者。地元の実業団ユニチカ垂井に進み、当時コーチ兼任の宇津木妙子内野手(68歳・元日本代表監督)と2年間一緒にプレーした。

「宇津木さんに打撃を生かせる野手転向を勧められ、ライトゴロなどで強肩も生かせる右翼を守りました」

 全国レベルのソフトボール競技歴を持つ女子プロは、岡本綾子(70)を筆頭にツアーにはたくさんいる。

「バットを振っていた経験がゴルフにはいいと思います。先端で物をとらえる動作によって、どういう球が出るかを感覚的にできるようになります」

 ユニチカ垂井では1986年山梨国体で準優勝し、全日本代表候補にも選ばれた。

「ソフトボールは社会人2年間で引退して退社しました。その後は実家近くのゴルフ場(さくらCC)のレストランのアルバイト。そこの支配人が『体格が良すぎるからもったいない』と、私が知らないところでツテを探し、葛城GC(静岡)の寺下郁夫プロ(69)が女子プロを育成しているからと、面接を受けることになったのです。私は当時プロになりたいとか、ゴルフ自体を始める気もなかったんです」

 面接は87年2月。

「寺下プロと社会人野球出身の支配人の前で、私はゴルフクラブを振ったことがなく『じゃあバットを振ってみろ』と言われ、バットスイングを見てもらって『合格だ!』となりました」

 研修生時代の苦労もある。

「クラブ置き場(現在は藤田寛之のトレーニングルーム)で8Iのクラブ1本を選び、最初の半年はコースにも出させてもらえず、寺下プロには『先輩を見て勉強しなさい』と言われただけ。私は葛城を拠点としていた先輩女子プロのスイングを見ながら『ああやって打つんだ』と素振りから入り、教則本などを読んで、グリップの握り方などを勉強しました」

 今の若手プロたちの環境とは大違いだ。

「ボールはたくさん打ちました。朝は4時半から練習場の電気をつけて、夜もキャディーの仕事が終わった後、1日1000球ぐらい打ち込むこともありました」

 コースに出て初めてハーフを回ったのは入社半年後だった。

「プロテストに行くまでに20人以上の中から『研修会』という試合形式の年間スコアで、上位4人に絞られるんです。コースの空き状況によって多いときは週に2~3試合は組まれ、結構なラウンド数でした。もともとスコアを出せる先輩がたくさんいて、その人たちを何人も抜いていかないとプロテストには行けない。後輩に抜かれた先輩は自信がなくなるので、やめてしまいます。その繰り返しですよね。葛城で選ばれた人はプロテストには実力がついた状態で行ってました。厳しいからこそ、みんな頑張れました」

「新人で怖いものなしでした」

 いつも笑みを絶やさず強さを見せつけた「スマイリング・ウイナー」の西田智慧子(55)。プロ2年目の1990年は、2月にアジアサーキット「マレーシアオープン」を制してから国内ツアーに本格参戦だった。

 3月の開幕直後から半年間で5度のトップ10入り。秋にはボールの契約先ダンロップの推薦で出場した10月の宝インビテーショナル(滋賀・蒲生GC)でツアー初優勝を果たすと、翌週の富士通レディースで2週連続優勝を達成した。

「新人で怖いものなしでしたね。ドライバーはヤマハのカーボンヘッドで飛距離は230~240ヤード。最初から曲がらなかったのが、自分では不思議じゃなかったです。(研修生時代に)キャディーでお客さんについたとき、みんなすごく曲がるなと思ったくらいでした(笑い)」

 93年はツアー4勝目の「中京テレビBSレディス」を含め、トップ10入り14試合。平均パット数は堂々の1位となった。

「パターは好きで自信がありました。距離感とかで悩んだことはまずないです。自分のラインを出していくのと、強さとラインが一致するコースとそうじゃないコースがあるだけでした」

 パターは研修時代から磨いてきた技だった。

「たぶん難しい葛城のグリーンでゴルフを始めたから上達できたのだと思います。葛城は順目も逆目もはっきりしていて、微妙なアンジュレーションが利いていて曲がり幅を膨らませる必要がありました。他のコースではあまり膨らませ過ぎないように、かえって真っすぐ打つことの方が難しかったです(笑い)」

 プロになってすぐに好成績を残せた理由は他にもある。

■前田すず子、柴田規久子と一緒に気分転換

「仲間との気分転換がすごくよくできていたと思います。(同学年で同期プロの)前田すず子(現真希)さん、柴田規久子さんとは練習ラウンドや宿舎・食事も共にして、千葉での試合では、週の初めに(開場間もない)東京ディズニーランドに行ったりして楽しかった」

 そして根っからのゴルフ好きなのだ。

「ゴルフが嫌だなと思う時も確かにありましたが、やはり楽しい。今月頭に出場したステップアップツアーも9年間空いた分『やっぱり私はゴルフが好きなんだな』という思いが強くなりましたね」

 今の女子プロゴルフ界について聞いてみた。

「華やかですごくいいとは思います。ただ、あんまり若年化してほしくないという気持ちもあります。幼い頃の骨格とかができていない状態から体を酷使している。私も今はジュニアを小学低学年から教えていますが、成長段階では体の左右両方向へ振らせるなど、無理をさせないようにしています。今の女子プロは10代から活躍する選手が出ている。この先、20歳を過ぎたら下降線をたどるようなことにはなってほしくないですね。もっと息が長い選手が出るようになってほしいとは思います」

 人気が高まり、盛り上がりを見せる現在の女子プロ界の問題点も心配している。

(構成=フリーライター・三上元泰)

∇西田智慧子(にしだ・ちえこ) 1966年9月12日生まれ、岐阜県可児市出身。多治見西高ソフトボール部では右腕エースで主力打者、実業団ユニチカ垂井では野手として86年山梨国体準優勝、日本代表候補に。引退後に葛城GC研修生となり20歳でゴルフを始め、89年5月にプロテスト合格。翌90年2月にアジアサーキット・マレーシアオープン優勝。3月、ミズノプロ新人優勝。レギュラーツアー本格参戦1年目から頭角を現し、10月の宝インビテーショナル初優勝、翌週の富士通レディースで2週連続優勝の快挙。ツアー通算7勝。現在はレッスン活動を主体にレジェンズツアー2勝。身長163センチ。

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