川崎Fの連覇で大学卒・Jリーグ経由の欧州移籍が新トレンドになる
2021年シーズンのJ1リーグは、川崎フロンターレが圧倒的な力の差を見せて連覇を達成した。
川崎Fがホーム等々力で優勝を決めた試合を取材しながら、日本サッカーのトレンドに「変化が起きつつある」ことを思った。「海外移籍の条件」が、明らかに変わりつつあるのである。
これまで海外に移籍した選手の大半は「高校卒」か「ユース育ち」だった。静岡学園を中退してブラジルに渡った「キング・カズ」三浦知良は別格にしても、城彰二(鹿児島実業)、中田英寿(山梨・韮崎)、小野伸二(静岡・清水商)、中村俊輔(神奈川・桐光学園)らは、高卒でJリーガーになるとすぐさまレギュラーポジションをつかみ、欧州のクラブに移籍することでステップアップしていった。
やはり「若い」ということが、大きなポイントとなる。若ければ伸びしろも期待できる。サッカーに限らず、プロスポーツの世界では「若さ」が大きな武器になる。
一方で「大学卒」の選手は、なかなか欧州のクラブから声が掛らなかった。そもそも「大学を出たエリートがサッカーのプロ選手になる」という発想が、欧州には欠如していたことも関係する。メッシや久保建英のようにプロの選手になるなら、子供の頃からサッカー漬けの日々を送るのが当たり前だからだ。
さて、J1連覇を達成した川崎Fだが、クラブのレジェンドである中村憲剛(中央大)を始めとして大卒選手を多く補強してきた。どうしてか? 大卒選手の場合、海外のクラブから引き抜かれることがほとんどないため、腰を据えて長期的視野に立ったチーム作りが可能となるからである。
今シーズンのチームを見てもCBの谷口彰悟とSB車屋紳太郎、8月にベルギーに移籍したFW三笘薫は筑波大卒、DF山根視来とMF橘田健人は桐蔭横浜大卒、SB旗手怜央とMF長谷川竜也は順天堂大、FW小林悠は拓殖大、MF脇坂泰斗は阪南大、FW知念慶は愛知学院大、MF山村和也は流通経済大と主力クラスの選手に大卒が多い。
つい最近、あるサッカー関係者から興味深い話を聞く機会があった。鹿島は今季開幕前に明治大の右SB常本佳吾とGK早川友基、大阪体育大のCB林尚輝の大卒ルーキー3人を獲得した。昨シーズンの法政大FW上田綺世に続く大卒選手の補強である。その理由は、川崎Fと同じと言ってもいいだろう。
「高卒の選手は2~3年で海外に移籍してしまうため、その都度チーム作りをやり直さないといけない。その点、大卒選手はチームに長くとどまってくれる。方針を変更した」というのである。
鹿島には昔から優秀なスカウトマンがおり、多くの高卒の有望選手を獲得してきた。FW柳沢敦、MF中田浩二、MF本山雅志、MF小笠原満男、そしてMF柴崎岳、DF植田直通、DF昌子源、FW鈴木優磨、FW安部裕葵といった選手たちである。彼らには共通項がある。すべての選手が、一度は海外のクラブに引き抜かれていることだ。
常勝軍団とうたわれた鹿島だが、2016年シーズン以降リーグ優勝から遠ざかっている。長期的な視野に立ったチーム強化の重要性に気付き、大卒選手を多く獲得することに軸足を移したというわけだ。
大学サッカーで選手もレベルアップ
ところがーー。川崎Fの「ここ5シーズンで優勝4回」という躍進ぶりが、新たに「大卒選手が欧州にチャレンジする」というトレンドを形成しつつある。
川崎Fは21年1月にポルトガルに移籍したMF守田英正(流通経済大)に続き、大卒の主力である三笘を8月に引き抜かれた。W杯最終予選の11月ラウンドの代表メンバーに招集されたマルチプレーヤーのMF旗手にも、海外移籍の噂が飛び交っている。大卒選手も、欧州各クラブから狙われるようになった。無論、このことは選手本人の努力の賜物であり、大学サッカーの指導者と関係者の情熱が、選手のレベルアップに結びついた結果であることは言うまでもない。
高校サッカー部やJユース時代にはプロからお呼びが掛らなかったものの、大学サッカー部の4年間で懸命の努力を続けた結果、プロになってJリーグで結果を残して海外移籍を果たす。
早熟な選手は、そう簡単に出現するものではない。今後も「大卒・Jリーグ経由の海外移籍」を注視したいと思う。