(1)ミクシィはFC東京を買収…Jリーグはエンタメ事業の起点となりうるのか
「クラブの歴史、東京という都市の魅力。それがFC東京への経営参画を決めた大きな要因です」
2021年12月の記者会見でミクシィの木村弘毅監督がこう語った通り、今季からFC東京は同社の筆頭株主とする新組織で新たなスタートを切った。
ミクシィを筆頭に2018年にJ2・町田に経営参画したサイバーエージェント、2019年に鹿島の経営権を取得したメルカリなど、近年はIT企業の積極的な動きが目立つ。彼らはなぜJリーグに目を付けたのか。改めて深掘りしてみたいーー。
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■IT企業はデジタル力で経営を最適化
2月18日に2022年Jリーグが開幕した。今季は1993年からリーグ30年目の節目に当たる。創設当時は、鹿島の住友金属工業(現新日本製鉄)のような重厚長大型産業、あるいは横浜の日産自動車や名古屋のトヨタ自動車と自動車メーカーなどが主要な親会社だったが、時代の変化とともに様変わりしていった。
今では神戸の楽天、鹿島のメルカリなどIT企業が増加している。今季のミクシィ参入でその傾向に拍車がかかった印象だ。
J2・FC琉球の物販やファンクラブ会員事業を請け負い、クラブビジネスにも参戦したマイネットの上原仁社長(現Bリーグ・滋賀レイクスターズ代表)も「ITとスポーツの親和性は高い」と語る1人だ。
「IT企業はデジタルで経営を最適化することに長けている。ネットからデータを引き出し、分析・検証して、正しい判断をすることも得意です。そのノウハウをクラブ運営面に還元できるのは非常に大きいと思います」
実際、マイネットが2020年から関わっているFC琉球の物販事業も、順調に売り上げを伸ばしている。
彼らがまず手掛けたのは「客層の区分け」だ。5層程度に分け、それぞれの特性を分析し、どのようなニーズがあるのかを検証した。
IT企業がスポーツに参入するポイント
コア層であれば、個サポ(選手個人を熱狂的に応援するサポーター)の比率が高いので「推し活」を好む彼らにウケる背番号入りユニフォーム型クッションなど希少価値の高い商品を企画。これが見事に奏功した。
中間層はファミリーが多いため、低価格で子供が喜びそうな商品作りを追求。一定の反響を得たという。
「IT企業がスポーツに参入するポイントは大きくいって2つあると思います。1つはブランド価値、もう1つがデジタル力注入で発展が見込めること。どちらかに主眼を置くケースが多いと思います」と上原社長は前向きに語る。
楽天やプロ野球の横浜に参画するDeNA(ディーエヌエー)などは前者に該当するだろう。
コロナ禍の2020年の神戸の経営状況を見ても、売り上げは47億円なのに人件費はなんと64億円。楽天から52億5000万円の特別利益を計上することで黒字決算としている。
こうしたカネの流れを見ても分かる通り、「世界的至宝のイニエスタや日本代表の大迫勇也らを擁するステイタス」を重視。ブランド価値を高めようとしている模様だ。
さらにJタイトルやアジアチャンピオンズリーグ優勝がついてくれば理想的。「アジアナンバーワンのクラブにして、サステナブルなチームを作る」と三木谷浩史会長も公言しているが、そのためには巨額投資も厭わないのではないか。
■365日型のコミュニケーション
逆にメルカリやミクシィなどは後者と見ていい。
「FC東京は前身の東京ガス(サッカー部)から数えると(創設されて)86年。クラブとしての魅力を感じた。そして東京のポテンシャルも大きい。多様性、可能性、連携という3つの要素を持つこの大都市で愛されるチームを作れたら、こんなに嬉しいことはない」と昨年末に木村社長は語気を強めていたが、現時点で東京に本拠地を置くJ1クラブはFC東京だけ。今後のやり方次第でさらなる発展が見込めると考えるのも不思議ではない。
2022年2月から新社長に就任した川岸滋也氏も「365日型のコミュニケーションツールを開発して届けたい」とコメントしていたが、そういったノウハウは十二分に蓄積されている。
たとえば「オンラインを使った観戦体験の場を増やす」「音楽や芸術とのコラボ」など具現化できることは多くありそうだ。Bリーグ・千葉ジェッツにも経営参画する同社だけに、バスケットとサッカーの融合も考えられる。
エンタメ事業の起点としてJリーグには、それ相応の価値があると考えていい。=つづく