南野拓実がW杯最終予選初ゴール ついに「エースナンバーの重圧」を克服した
南野拓実(リバプール/27歳)
「次の重要な一戦で結果を示せると思います」
日本代表のエースナンバー10を背負った南野は1日のサウジアラビア戦を前に、今度こそカタールW杯最終予選初得点を奪うと誓った。
それをやってのけたのが前半32分。伊東純也(ゲンク)の折り返しにファーで反応。GKに当てながらも気持ちのこもった左足シュートをゴールに押し込んだ。
19歳だった2014年4月に初めて日本代表候補入りしてから苦節8年。最終予選初ゴールの高い壁を破った男は「10番の呪縛」から解き放たれた。
■不慣れな左ウイングに困惑
2018年9月の森保日本発足時から攻撃の中核を担い、2019年アジアカップや同年9月からスタートしたW杯予選でもコンスタントにピッチに立ってきた。
2次予選ではキング・カズ(三浦知良=JFL鈴鹿)の4連続ゴールという記録をはるかに上回る7連続弾を決め、大きな存在感をアピール。日本代表スポンサー・アディダスの契約選手ということもあり、中島翔哉(ポルティモネンセ)が背負っていた10番を2020年から正式に継承。名実ともにエースとなり、最終予選でもゴールラッシュが期待されていた。
ところが、2021年9月の初戦・オマーン戦前日に左大腿部痛を訴えて離脱。10番不在の日本代表はまさかの苦杯を喫し、最悪のスタートを強いられる。南野は気を取り直して10月の敵地・サウジ戦に再合流。勝利請負人として得点を求められたが、後半13分で交代。チームも序盤3戦で2敗という崖っぷちに立たされた。
直後のホーム・豪州戦から4-3-3に布陣変更。チームは再浮上の兆しを見せたが、南野は不慣れな左ウイングの役割に困惑。無得点が続く。
代表での苦境に追い打ちをかけるように所属のリバプールでも出番に恵まれなかった。2021年に半年間のレンタルで赴いたサウサンプトンから戻り、「今季が勝負」と気合を入れていたが、フィルミーノ、サラー、マネの強力3トップに加えて進境著しいジョッタの存在もあり、序列を上げる難しさを噛みしめたはずだ。
「チャンスは必ずつかめる」
困難に直面しても焦らず、じっくり取り組めるのが南野の良さ。
2015~2019年まで丸5年間過ごしたオーストリア1部ザルツブルクでも、常に華々しい活躍をしていたわけではなかった。ハーランド(ドルトムント)のように若手の後輩がビッグクラブに羽ばたいていくのを横目に見ながら、彼は自分自身にフォーカスし続ける。
「スタメンで出続けてゴールを取れば、風向きも変わってくる。チャンスは必ずつかめる」
ザルツブルク時代に口癖のように言い続けていたものである。
当時、クラブハウスに何度か訪問したが、朝早くから練習の準備をし、全体練習中も目をギラつかせてゴールに迫っていた。
セレッソ大阪U-18時代の彼とバチバチ削り合っていた岩波拓也(浦和)も「拓実はもの凄い負けず嫌い」と話したが、「多少の時間はかかっても努力は裏切らない。必ず結果が出る」という信念をは、10代の頃から抱いていたのだろう。
努力という意味では、外国語を含めた異国への適応にも貪欲だ。
ザルツブルク時代に「週3回はドイツ語のレッスンに行ってます。喋れると仲間との距離が縮まりますね」と嬉しそうに話してくれたことがある。
筆者が「ドイツ語の『エントシュルディグング(英語のエクスキューズミーに該当)』がうまく通じなくて困ってる」とこぼすと「それって基本中の基本じゃないですか」と笑われた。真面目な男は、キッチリと発音から叩き込んでいたようだ。
絶好調男とガッチリ抱き合った
芯の強い性格だけに、最終予選で7戦無得点が続いても「やるべきことを継続していれば必ずゴールにつながる」と信じて疑わなかったのだろう。それがサウジ戦でついに結実。お膳立てしてくれた絶好調男・伊東とガッチリと抱き合った。
「最終予選で点を奪えていなかったことに対してそこまで気負っていたわけじゃないけど、チームのために貢献したいという気持ちがあった。どんな形でもゴールはゴール。決められてよかった」と本人も安堵感を吐露した。
過去に10番を背負った中村俊輔(横浜FC)、香川真司(シントトロイデン)も重圧に苦しんだ。「エースの宿命」を受け止め、自ら克服した南野には頼もしさを感じる。
次はリバプールでの活躍だ。冬の移籍期間にコロンビア代表のルイス・ディアスが加入。リーズやモナコ行きも噂された南野は、厳しい競争に身を投じることを選んだ。世界最高峰クラブのプレーが代表に影響することは、本人も十二分に理解している。
ここからが本当の勝負だ。