女子プロボクシング吉田実代が目指すもの 米国での初戦勝利も“世界王者さえ食えない”現実
男子とは試合数、チケットセールスで格段の差
勝てば華やかだが、現実は厳しい。100億円以上の複数年契約を勝ち取るメジャーリーガーは言うに及ばず、世界5階級制覇王者のフロイド・メイウェザーのタイトルマッチのように、ファイトマネーやPPV報酬で一試合数百億円が動く男子プロボクシングとは、同じプロボクシングながら、世界がまったく異なる。
そのため、仕事を掛け持ちする選手が少なくなく、吉田選手もつい最近まで日本でパーソナルトレーナーをしながら生計を立てていた。
「試合数からしてまったく違いますし、男子に比べてチケットも売れないので、当然、ファイトマネーにもそれが反映されます。世界チャンピオンに2回なっても、なかなか注目してもらえないのが現実です」
大事な一戦を控える中、写真集を発売し、発売記念イベントでは全国を巡った。
「拠点はもうアメリカなので、東京には家がありません。旅行者が増えたタイミングだったのでホテルも取れず、イベントの会場で寝泊まりをさせてもらったり、周囲に助けてもらいながら、その場しのぎの生活が続きました」
撮影は父の故郷であり、自身が観光親善大使を務める沖永良部島で行われた。
「試合前の減量ではやせこけてしまうのですが、撮影のため、胸のボリュームを落とさずにウエストを絞るといった身体作りに苦心しました」
世界チャンピオンの経歴を持つ現役の女子プロボクサーが、ヴィジュアル写真集を出すのは非常に珍しい。写真集は現在所属する事務所の社長から勧められたが、何度も断ってきた。だが、ふと「女子ボクシング界にとって何かプラスになるのでは?」と考えたという。それもひとえに、少しでも多くの人に女子のボクシングを見てもらいたい、という思いからだった。
「一つの枠に拘らず、少しでも興味を持ってもらいたい。私が戦うことで、女子ボクシング界を盛り上げたい。支えて下さっている周りの方や同じシングルマザーの方々にも元気を与えたいという気持ちがとても強いです」
女子の場合、出産によるブランクがあり、努力のスピードが結果に追いつかないことも多い。コンディションを維持するのも難しいのだ。
■娘や自分のために信じて苦難を乗り越える
一人娘と暮らす35歳、シングルマザーの吉田選手にとって、渡米は背水の陣といっていいだろう。今回の試合もトラブルが続き、延期となっていたが、ようやく実現にこぎつけた。
「人生を試されていると思っています。トラブルを含め、ひとつひとつをクリアしていくことで流れが良くなる気がして。私が闘うことも、アメリカに拠点を移したことも、いつか娘や自分のためになると信じて乗り越えています」
凛々しい顔つきの吉田選手だが、試合や写真集の出版を、娘と一緒になって喜ぶ柔和な母親の顔ものぞかせる。
「試合では『ママ頑張ったね!』と励ましてくれたり、一緒に泣いてくれますが、いつもと違う写真集の私を見て、『ママ可愛い』って喜んでくれて。グラビア的な写真もあるんですが、そのページは『キャー!』っと目を覆って恥ずかしがっています(笑)」
最後に、熱中できる夢の見つけ方、実現の仕方について聞くと、こう答えてくれた。
「夢を見つけるには、視野を広く持って、とにかく動くことだと思います。私も10代の頃は夢がなかったけど、チャレンジを続けてきたことで、今は世界で闘っています。私はもっと闘いたいです」
拳一つで女子プロボクシングの世界を発信する、吉田選手の今後に注目していきたい。
(取材・文=よしだゆみ/ライター)