「池永康晟画集君想ふ百夜の幸福」池永康晟著
■画家とモデルとの濃密な時間が封じ込められた美人画集
長年の試行錯誤の末にたどり着いた日本画技法を駆使して独自の世界を築いた美人画集。
大胆な花柄、植物柄を背景に、同じく草花柄の衣装を身に着けた女性たちを描いたその作品は、褐色に染めた麻布にようやく見つけ出した肌色をのせ、「褐色と肌色とが織物」のような絵肌を持つ。色彩の鮮やかさを排し、セピア調の画面は、印刷されたページを通しても、どこかなまめかしい質感が伝わってくる。
しゃがみ込み、髪を触りながらの思わせぶりの表情〈たくらむ〉や、あおむけに寝転び胸元に柔らかく手を置き一点を見つめる「恵美子」さん〈ふくらむ〉、軽やかに後ろ手に洋服の裾を摘まみ上げたり〈甘い風〉、ベッドの(ような)上でうつぶせから起き上がるように腕を立て上半身だけを持ち上げた「真喜子」さん〈蝋燭(ろうそく)〉など、描かれる女性たちは、表情やポーズを変え、何度も描かれる(〈 〉内はそれぞれの作品タイトル)。
決して交わることがない、どこかじらすような、誘うような視線の女性たちのさまざまな表情を描いた作品は、軽やかに移ろいゆく彼女たちの感情の変化を描いているようにも感じられる。