「透明カメレオン」道尾秀介氏
「パーソナリティーを主人公にしようとしたとき、鉱石ラジオというアイテムを出して、その微弱なものが持っている力のようなものを書きたかったんです。この小説に出てくるウソは〈欺瞞〉ではなく〈虚構〉。言葉の持つ力は大きくて、たとえば、『疲れていますか?』と聞かれたときに、ぼくはいつでも『疲れていません』と答えるんですよ。『疲れているんです』と言ったら、その瞬間、本当に疲れてしまうから」
〈虚構〉と事実の関係を象徴するのが、「透明カメレオン」という奇妙なタイトルだ。恭太郎の小学生時代に“カメレオンを飼っている”同級生がいて、その同級生は、壁や床の色に同化してしまうので見えにくいが、そこにカメレオンが確かにいるのだと主張していた。
「〈透明カメレオン〉というタイトルには、存在しないものでも信じればそこに存在するんだという意味を込めています」
作家生活10周年記念作品となるエンターテインメント小説である。(KADOKAWA 1700円+税)
▽みちお・しゅうすけ 1975年生まれ。04年「背の眼」で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞してデビュー。09年「カラスの親指」で日本推理作家協会賞、10年「光媒の花」で山本周五郎賞受賞、11年「月と蟹」で直木賞受賞。