「生還者」下村敦史著
ネパールとインドの国境地帯にまたがるカンチェンジュンガ山域で大きな雪崩が起き、日本人登山者7人のうち、4人の死体が発見された。増田直志の兄・謙一も、犠牲者のひとり。直志は信じられない思いで兄の葬儀に駆け付けた。
というのも、4年前に遭難事故で婚約者を亡くして以来、兄は山に登ることをやめていたからだ。しかも遺品にあった兄のザイルには、人為的に切られた跡が残っていた。兄は殺されたのではないかという直志の疑いが日に日に大きくなるなか、相次いで2人の生存者が発見される。しかし帰国後それぞれが全く異なる証言をしたことから真相は闇の中へ。どちらが嘘をついているのか。真実を突き止めるべく、直志は行動を開始する。
昨年「闇に香る嘘」で第60回江戸川乱歩賞を受賞した著者による最新作。一種の閉鎖空間である山岳地帯での死という特殊性と、山を愛する人の倫理観やルールを下敷きにした上質の山岳ミステリーに仕上がっている。(講談社 1600円+税)